東京大学工学・情報理工学図書館は、卒業論文、調査実習報告など明治10年から蓄積された教育・研究成果である史料類も多数所蔵しています。鉱山絵図・絵巻コレクションもこうした史料類の1つであり、とくに「先大津阿川村山砂鉄洗取之図」は、たたら炉による製鉄など当時の最先端の鉄鋼産業を紹介したものとして高い評価を得て、教科書などにも紹介されています。
鉱山絵図は、実用的な目的のためにさまざまなものが作成されています。鉱山の配置や概要を示す「敷岡(しきおか、坑内外)絵図」、坑内の排水などに必要な「振矩(ふりかね、測量)絵図」、鉱山で行われている作業内容や状況を図示した「鉱山絵巻」などが代表的なものです。このデータベースは、図書室が所蔵する佐渡相川金銀山(新潟県佐渡市)、閉伊郡金沢村金山(岩手県大槌町)、先大津阿川村(山口県下関市)の絵巻、敷岡絵図、振矩絵図などを画像データにしたものです。
相川金銀山は、佐渡島の4大金銀鉱山の1つで、慶長6 (1601)年、鶴子銀山の山師によって発見されたと言われています。坑道の総延長は約400キロメートル、最深部は海面下530メートル、採掘された鉱石は約1,500万トン。名実ともに日本最大の金銀山です。絵図は、元禄8(1695)年に振矩師静野与右衛門(しずの・よえもん)が調製したものです。
金沢金山は別名佐野金山とも呼ばれ、現在の岩手県の上閉伊郡大槌町に位置しています。初発見は江戸初期に遡るといわれますが、残された絵図類は、文政6(1823)年に発見、採鉱された金沢金山のもので、当時の繁栄ぶりが伺えます。
「先大津阿川村山砂鉄洗取之図」は江戸時代末期の狩野派の絵師作と伝えられています。たたら吹き製鉄法は、近世から近代にかけて良質の砂鉄産地である中国地方において著しく発達したわが国独自の製鉄法です。防湿防水下部構造を持った箱型炉(たたら炉)を用いて、たたらと呼ばれる踏み鞴(ふいご)で送風、溶解を行います。絵巻は、製鉄の工程(原料砂鉄の採取、燃料木材の生産、たたら炉での製鉄、たたら鉄から商品としての鉄や鋼の製造)を詳細に伝えています。
今回の公開に当たり、鉱山、金属の歴史研究者、研究機関などがこのデータベースを積極的に活用されることを期待しています。最後に、多大なご協力をいただいた公益財団法人JFE21世紀財団の関係者に、心から感謝申し上げます。
東京大学工学・情報理工学図書館