学位論文要旨



No 217444
著者(漢字) 二宮,浩範
著者(英字)
著者(カナ) ニノミヤ,ヒロノリ
標題(和) 肺腺癌における形態学的特徴と上皮成長因子受容体(EGFR)変異の関連性について : micropapillaryパターンと鋲釘型細胞型は変異の有無と関連している
標題(洋) Correlation between morphology and EGFR mutations in lung adenocarcinomas. Significance of the micropapillary pattern and the hobnail cell type.
報告番号 217444
報告番号 乙17444
学位授与日 2011.01.26
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第17444号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,雅
 東京大学 准教授 中島,淳
 東京大学 講師 高井,大哉
 東京大学 講師 太田,聡
 東京大学 連携教授 中村,卓郎
内容要旨 要旨を表示する

上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異の有無は腫瘍のチロシンキナーゼ阻害薬に対する感受性と有意に関連しており, 日本やアメリカで最も頻度の高い腺癌においては特に重要である. 日本人におけるEGFR遺伝子変異と病理学的所見の関連を調べるために, WHO分類と細胞型(鋲釘型、円柱型、多形型)を用いて, 詳細な病理学的解析を行った.107例の外科切除された症例を対象とし, 臨床病理学的データとEGFR遺伝子変異の有無との関連を調べた. 計63例(59%)の症例においてexon18-21におけるEGFR遺伝子変異が認められ, 女性(P=0.003), 非喫煙者(P=0.008), 鋲釘細胞型を呈する症例(P<0.00001)で有意に多くみられた。さらにbronchioloalveolar (BAC)成分とmicropapillaryパターンを有する症例で有意であった(それぞれP=0.012, P=0.043). この詳細な病理学的解析により肺腺癌においては, 鋲釘型細胞型であること, BAC成分, micropapillaryパターンの有無がEGFR遺伝子変異の予測因子であることが明らかとなった.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、肺腺癌におけるチロシンキナーゼ阻害薬に対する感受性と密接に関連している上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異の有無と病理学的所見との関連につき、外科切除材料について詳細な解析を元に調べたものであり、以下の結果を得ている。

1. 107例の外科切除された肺腺癌症例を対象とし,EGFR遺伝子変異に関しては凍結検体から抽出されたDNAをPCR法にて増幅し、エクソン18、20の点変異はdirect sequenceをおこない解析した。エクソン19、20の欠失と挿入はfragment analysisにて検出した。エクソン21の点変異の検出にはgenotyping analysisおよびdirect sequenceを行なった。その結果、エクソン18-21におけるEGFR遺伝子変異を計63例(59%)の症例に見いだした。

2. 臨床病理学的事項との関連においては、女性、非喫煙者、高分化癌に有意に高頻度にEGFR遺伝子変異が認められた(P=0.003, 0.008, 0.034)。変異のパターンとして最も多かったのはエクソン19におけるin-frame deletionであり、次に多かったのはエクソン 21におけるmissense mutationであった (48%、43%)。

3. WHO分類に基づくと107例中97例(91%)が混合型となり同一のグループに分類されたが、この群についてさらに細胞型による分類を行うと、EGFR遺伝子変異陽性例は、鋲釘型細胞群:47/68(例)、円柱型+多形型細胞群:7/29(例)となり、鋲釘型で有意に変異が高頻度にみられた(P<0.00001)。鋲釘型は非喫煙者に多くみられる細胞型であり、p53変異パターンおよび喫煙との関連が反映された分類である。

4. チロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブが投与された術後再発18例においてみてみると、病勢コントロールの得られた13例全例が鋲釘型に分類され、うち12例がEGFR遺伝子変異を有していた。

5. 腫瘍細胞が肺胞腔を這う様に進展するbronchioloalveolar (BAC)成分と線維間質を欠いた乳頭状構造をとるmicropapillaryパターンを有する症例において有意に高い頻度でEGFR遺伝子変異が認められた(それぞれP=0.012, 0.043)。

6. micropapillaryパターンは病理病期I期の予後不良因子かつリンパ節転移の危険因子であり、上記結果と併せてEGFR遺伝子を高頻度に有する系統の細胞が転移・浸潤能を獲得した表出である可能性が考えられた。

以上、本論文は肺腺癌においてこれまでに報告のなかった(1)細胞型分類における鋲釘型細胞および(2)micropapillaryパターンがEGFR遺伝子変異と有意に関連していることを明らかにした。これは腫瘍細胞の持つ遺伝子変化-表現型の関連を示す例であり、病理学的な知見が分子標的治療との関連している重要な知見と考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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