No | 215704 | |
著者(漢字) | 前田,雄介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マエダ,ユウスケ | |
標題(和) | グラスプレス・マニピュレーションの力学と計画 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215704 | |
報告番号 | 乙15704 | |
学位授与日 | 2003.06.12 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15704号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では,ロボットによって物体を把持しないで操る「グラスプレス・マニピュレーション (grasp-less manipulation)」について,力学解析および操作計画の問題を扱った. マニピュレーション,すなわち物体をある位置からある位置まで運ぶことは,ロボットに作業をさせる上での最も基本的な要素の一つである.従来より,ロボットのマニピュレーションでは,物体をかたく把持した上で操るピックアンドプレイス (pick-and-place) が主流であり,そのため把持の研究が精力的に行われてきた.しかし,1980年代半ばから,把持によらない操り,すなわち単に物体を押す,転がすなどして操る手法も研究されるようになった.これらは総称してグラスプレス・マニピュレーションと呼ばれる.ロボットに人間のような器用さを与えるためには,把持による操りに加え,多様なグラスプレス・マニピュレーションを実行できるようにすることが必要不可欠であると言える. しかし,これまでグラスプレス・マニピュレーションに関しては,押し操作(pushing)のみ,転がし操作(tumbling)のみ,などと対象を限定した上での研究がほとんどであり,これらを包括的に扱った研究は極めて少ない.しかし,ロボットに多様なグラスプレス・マニピュレーションを実現させるためには,これらを統一的に扱うことのできる理論が必要である. そこで,本論文では,グラスプレス・マニピュレーション全般を研究の対象とし,以下のことを明らかにした. まず,グラスプレス・マニピュレーションの力学解析の準備として,マニピュレーション中の対象物に加わる接触力のモデル化を行い,回転を伴う面接触が存在する場合でも,従来の方法より正確に接触力をモデル化するための手法を提案した. また,グラスプレス・マニピュレーションは,物体をかたく把持して操るわけではないため,一般的にピックアンドプレイスに比べると,外乱に対する操作の確実性は劣る.したがって,操作の確実性を定量的に評価する手法を提案し,グラスプレス・マニピュレーションの計画・実行に役立てることが重要となる.ここでは,グラスプレス・マニピュレーションにおいては,操作中(運動中)であることを考慮に入れた操作の確実性の評価が必要であることを指摘するとともに,グラスプレス・マニピュレーションの操作の確実性を「ある大きさまでの外乱力が加わっても,対象物の運動が乱されないという性質」と定義した.また,この許容できる外乱力の大きさで操作の確実性を定量的に評価することを提案するとともに,線形計画法による指標の(近似的な)計算法を示した. さらに,グラスプレス・マニピュレーションは,環境との接触を伴うため,その際に,対象物に過大な内力が発生してしまう恐れがある.そこで,この過大な内力の発生可能性を判定する手法を新たに提案し,グラスプレス・マニピュレーションの計画・実行に役立てることを試みた.具体的には,「無限大の大きさの内力が発生しうること」を過大な内力の発生可能性の定義とし,線形計画法によって過大な内力の発生可能性の有無を判定する手法を提案した. また,さまざまなグラスプレス・マニピュレーションを実現するためには,状況によって位置制御と力制御を適切に使い分ける必要がある.そこで,上述した操作の確実性の評価と過大な内力の発生可能性の判定手法を利用して,各ロボット指を位置制御すべきか,力制御すべきかを決定する手法を示した.具体的には,「過大な内力が発生しない」かつその上で「操作の確実性を最大にする」という方針によって,グラスプレス・マニピュレーションにおいて,ロボット指の制御モード(位置制御/力制御)を適切に決定する手法を提案した.このアプローチによって,妥当な制御モードを自動的に決定することができることを数値例によって確認した. グラスプレス・マニピュレーションでは,対象物を把持していないことにより,ロボットの動きと対象物の動きとの対応が自明ではない.そのため,一般的なグラスプレス・マニピュレーションの計画を実現するためには,障害物回避だけでなく力学解析が必要となり,これは通常のロボットの動作計画に比べて困難な問題となる.そこで,論文の最後において,対象物を初期コンフィギュレーションから目標コンフィギュレーションまでグラスプレス・マニピュレーションによって動かすための,ロボット指の動作計画問題を扱った.上記のロボット指の制御モードの決定手法を組み込むことにより,適切に制御モードの切り替えを行って,できるだけ外乱に強いマニピュレーションを計画する手法を提案した.グラスプレス・マニピュレーション一般を対象とした力学解析の結果に基づいて計画アルゴリズムを構築することによって,押し操作や転がし操作・ピボット操作など多様なグラスプレス・マニピュレーションの計画を,指の持ち替えも含めて統一的に実現可能であることを明らかにした. 以上のように,本論文では一般的なグラスプレス・マニピュレーションを対象に,基礎的な力学解析(操作の確実性の評価・過大な内力の発生可能性の判定)を行うとともに,その応用としての複数のロボット指によるグラスプレス・マニピュレーションの計画手法(指の制御モードの決定・指の動作計画)を示した.これらは,ロボットによって多様なグラスプレス・マニピュレーションを実現するための基本的な道具立てとなるものであり,ひいてはロボットによる器用なマニピュレーションの実現に大きく資するものと期待される. | |
審査要旨 | 本論文では,ロボットによって物体を把持しないで操る「グラスプレス・マニピュレーション (grasp-less manipulation)」について,力学解析および操作計画の問題を扱っている.マニピュレーション,すなわち物体をある位置からある位置まで運ぶことは,ロボットに作業をさせる上での最も基本的な要素の一つである.従来,ロボットのマニピュレーションでは,物体をかたく把持した上で操るピックアンドプレイスが主流であり,そのため把持の研究が精力的に行われてきた.しかし,ロボットに人間のような器用さを与えるためには,把持による操りに加え,多様なグラスプレス・マニピュレーションを実行できるようにすることが必要不可欠であると言える. これまでグラスプレス・マニピュレーションに関しては,押し操作のみ,転がし操作のみ,などと対象を限定した上での研究がほとんどであり,これらを包括的に扱った研究は極めて少ない.しかし,ロボットに多様なグラスプレス・マニピュレーションを実現させるためには,これらを統一的に扱うことのできる理論が必要である. 本論文は,「グラスプレス・マニピュレーションの力学と計画」と題し,全7章から成る. 第1章では,上述のような研究の背景と目的について述べている. 第2章では,本論文で扱うグラスプレス・マニピュレーションを定義し,その概要を述べている.また,グラスプレス・マニピュレーションの力学解析の準備として,マニピュレーション中の対象物に加わる接触力のモデル化を行い,回転を伴う面接触が存在する場合でも,従来の方法より正確に接触力をモデル化するための手法を提案している. 第3章では,グラスプレス・マニピュレーションにおける操作の確実性について論じている.グラスプレス・マニピュレーションは,物体をかたく把持して操るわけではないため,一般的にピックアンドプレイスに比べると,外乱に対する操作の確実性は劣る.したがって,操作の確実性を定量的に評価する手法を提案し,グラスプレス・マニピュレーションの計画・実行に役立てることが重要となる.ここでは,グラスプレス・マニピュレーションにおいては,操作中(運動中)であることを考慮に入れた操作の確実性の評価が必要であることを指摘するとともに,グラスプレス・マニピュレーションの操作の確実性を「ある大きさまでの外乱力が加わっても,対象物の運動が乱されないという性質」と定義している.また,この許容できる外乱力の大きさで操作の確実性を定量的に評価することを提案するとともに,線形計画法による指標の(近似的な)計算法を示している. 第4章では,グラスプレス・マニピュレーションなどの接触作業における内力の発生の問題の解析を行っている.グラスプレス・マニピュレーションは,環境との接触を伴うため,その際に,対象物に過大な内力が発生してしまう恐れがある.そこで,この過大な内力の発生可能性を判定する手法を新たに提案し,グラスプレス・マニピュレーションの計画・実行に役立てることを試みている.具体的には,「無限大の大きさの内力が発生しうること」を過大な内力の発生可能性の定義とし,線形計画法によって過大な内力の発生可能性の有無を判定する手法を提案している. 第5章では,グラスプレス・マニピュレーションの実行におけるロボット指の制御モードの決定問題を扱っている.さまざまなグラスプレス・マニピュレーションを実現するためには,状況によって位置制御と力制御を適切に使い分ける必要がある.そこで,第3章で提案された操作の確実性の評価と,第4章で示された過大な内力の発生可能性の判定手法を利用して,各ロボット指を位置制御すべきか,力制御すべきかを決定する手法を示している.具体的には,「過大な内力が発生しない」かつその上で「操作の確実性を最大にする」という方針によって,グラスプレス・マニピュレーションにおいて,ロボット指の制御モード(位置制御/力制御)を適切に決定する手法を提案している.このアプローチによって,妥当な制御モードを自動的に決定することができることを数値例によって確認している. 第6章では,グラスプレス・マニピュレーションの計画問題について論じている.グラスプレス・マニピュレーションでは,対象物を把持していないことにより,ロボットの動きと対象物の動きとの対応が自明ではない.そのため,一般的なグラスプレス・マニピュレーションの計画を実現するためには,障害物回避だけでなく力学解析が必要となり,これは通常のロボットの動作計画に比べて困難な問題となる.そこで本章では,対象物を初期コンフィギュレーションから目標コンフィギュレーションまでグラスプレス・マニピュレーションによって動かすための,ロボット指の動作計画問題を扱っている.第5章のロボット指の制御モードの決定手法を組み込むことにより,適切に制御モードの切り替えを行って,できるだけ外乱に強いマニピュレーションを計画する手法を提案している.グラスプレス・マニピュレーション一般を対象とした力学解析の結果に基づいて計画アルゴリズムを構築することによって,押し操作や転がし操作・ピボット操作など多様なグラスプレス・マニピュレーションの計画を,指の持ち替えも含めて統一的に実現可能であることを明らかにしている.また,実機実験による計画結果の検証も行っている. 第7章は結論であり,以上の内容によって,ロボットに多様なグラスプレス・マニピュレーションを実現させるための基本的な道具立てが確立されたと結論づけている. 以上のように,本論文はロボットによるグラスプレス・マニピュレーション一般を対象に,その力学解析および動作計画手法を示した.これはロボット工学において価値ある成果だと言え,工学全般の発展に大きく寄与するところが大である. よって本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/51180 |