No | 212522 | |
著者(漢字) | 李,節子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | リ,セツコ | |
標題(和) | 在日外国人の母子保健統計に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 212522 | |
報告番号 | 乙12522 | |
学位授与日 | 1995.10.25 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 第12522号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年、本邦における「人」の国際化の現状はめざましく、1992年の在日外国人登録者数は総人口の1%を超え、母子保健・医療の分野でも外国人の受診者が増加し、さまざまな問題が提起されている。中でもこれまでになかった「新しい外国人」ニューカマーに対する対応と、「不法在留」「資格外就労」(以下、オーバースティ)の問題がクローズアップされている。現在、在日外国人の母子保健・医療対策を考えるにあたっては、その国際化の現状を踏まえた広域的、包括的な健康施策の研究が求められている。しかし、これまで、全国規模での実態調査はほとんど行われておらず、在日外国人の現状をあらわす母子保健統計・健康指標となるものはない。 よって、本研究は、在日外国人の現状と推移を統計上から把握し、「人」の国際化の現状を明らかにするとともに、在日外国人の母子保健統計・健康指標を作成することによって、今後の施策の基礎資料と資するものである。 その方法として、国際人流に関する統計の分析、人口動態統計の分析を行い、在日外国人の国籍(出身地)別健康指標を作成した。さらには、全国福祉事務所を対象とし、在日外国人児童及び妊産婦の母子保健・福祉の実態を調査し、福祉事務所における在日外国人母子に関する国籍(出身地)別・年次別基本統計を作成した。 まず、国際人流に関する統計(1947年〜1992年)、人口動態統計(1955年〜1992年)の分析によって以下のことが、明らかとなった。 1.1986年末以降、アジア、南米出身の外国人登録者、国際結婚の件数が著しく増加し、在日外国人の構成要員が大きく変化。「日本人の配偶者等」の在留資格を持つ者が、1990年前後から激増し、1992年、国際結婚は約30組に1組、出生する児の約50人に一人が父・母あるいはどちらか一方が外国人となった。2.「新しい外国人」ニューカマーの年齢人口構造は、労働生産年齢人口に極めて集中し、女性は妊娠年齢期に集中していた。又、15歳以下の年齢人口では、5歳毎に増加し、0〜4歳の人口が最も多くなっていた。3.従来からの在日韓国・朝鮮人の人口学的性格は、日本人と類似していた。4.1958年以降、「韓国・朝鮮」「中国」の、乳児死亡率は「日本]と同様の減少傾向がみられた。5.1958年から1992年の5年毎の推移では、「その他の外国」は、第7期(1988-92年)の、乳児死亡数、死産数、妊産婦死亡数の総数が、そのすべてにおいて過去最高であった。又、第7期の死産率、乳児死亡率、妊産婦死亡率が日本人の約2倍となっており、母子保健上のハイリスクグループであった。(図1、表1)。6.1955年以降、「韓国・朝鮮」の0歳〜4歳の死亡数は、「日本」と同様に著しく減少し、総死亡数に占める割合も減少していた(図2)。しかし、「その他の外国」では1992年に過去最高となり、外国人登録者数割合と比べ高率であった。 7.1992年、「フィリピン」「タイ」の国籍に属する者が母子保健上のハイリスクグループであった。 全国福祉事務所562ヶ所における、外国人児童及び妊産婦への対応の実態調査及び、外国人相談ケース基本統計(1988年〜1992年)の作成によって、以下の事が明らかとなった。 1.対象福祉事務所の約半数が、外国人児童及び妊産婦から相談を受けたことがあり、その内の10ヶ所に1ヶ所が、オーバースティのケースがみられた。2.管内外国人登録者が増えるにつれ、外国人相談ケースの割合が高くなり、政令指定都市地域の福祉事務所では約9割が相談を受けていた。3.福祉事務所において、外国語で対応できる職員は約3割、外国語の案内書があるのは1割に満たなかった。4.全国福祉事務所における外国人児童及び妊産婦ケースの国籍(出身地)は、全世界的地域にみられ、南米及びアジアからの相談ケースが関東、中部地方に著しく増加していた。「日本人の配偶者等」の在留資格を持つ、妊産婦が急増し、「日本国籍」の児童相談ケースも増加していた。児童の年齢は乳幼児が大半を占めていた(表2)。5.「生活保護法」に関する制度の適用は5年間で殆ど変化していなかったが、「児童福祉法」[母子保健法」に関する制度の適用件数は急増していた(表3)。6.オーバースティ外国人児童及び妊産婦相談ケースの個別事例が全国から17例回答があり、保健・福祉上の問題が浮き彫りとなった。オーバースティ外国人児童は5年間で35人の相談があり、ほとんどが乳児であった。又オーバースティ外国人妊産婦は29人であった。福祉事務所における援助・対応のあり方が、今後の検討課題であった。 以上、本研究によって、本邦ではじめて全国的な在日外国人の現状をあらわす国籍(出身地)別・年次別母子保健統計・健康指標が作成された。その結果、[新しい外国人」ニューカマー及びオーバースティの外国人母子が母子保健上のハイリスクグループであることが明らかとなった。在日外国人母子に対する保健・医療・福祉、社会環境の改善が求められる。 | |
審査要旨 | 本研究は、在日外国人の現状と推移を統計上から把握し、「人」の国際化の現状を明らかにするとともに、在日外国人の母子保健統計・健康指標を作成することを目的とし、国際人流に関する統計の分析、人口動態統計の分析を行い、在日外国人の国籍(出身地)別健康指標を作成した。さらには、全国福祉事務所を対象とし、在日外国人児童及び妊産婦の母子保健・福祉の実態を調査し、福祉事務所における在日外国人母子に関する国籍(出身地)別・年次別基本統計を作成した。 国際人流に関する統計(1947年〜1992年)、人口動態統計(1955年〜1992年)の分析によって、下記の結果を得ている。 1.本邦において、1980年代後半、アジア、南米から「新しい外国人」ニューカマーが急増していたとともに、国際結婚、外国人出生児数も急増し、母子保健上の対象グループとして、無視できない人口割合を占めるようになった。 2.従来からの在日韓国・朝鮮人の人口学的性格は、日本人と類似していた。 3.「新しい外国人」ニューカマーの死産率、乳児死亡率、妊産婦死亡率は日本人の約2倍となっており、母子保健上のハイリスクグループであった。 全国福祉事務所562ヶ所における、外国人児童及び妊産婦への対応の実態調査及び、外国人相談ケース基本統計(1988年〜1992年)の作成によって、以下の結果を得ている。 1.対象福祉事務所の約半数が、外国人児童及び妊産婦から相談を受けたことがあり、その内の10ヶ所に1ヶ所が、オーバースティのケースがみられた。 2.管内外国人登録者が増えるにつれ、外国人相談ケースの割合が高くなり、政令指定都市地域の福祉事務所では約9割が相談を受けていた。 3.福祉事務所において、外国語に対応できる職員は約3割、外国語の案内書があるのは1割に満たなかった。 4.全国福祉事務所における外国人児童及び妊産婦ケースの国籍(出身地)は、全世界的地域にみられ、南米及びアジアからの相談ケースが関東、中部地方に著しく増加していた。「日本人の配偶者等」の在留資格を持つ、妊産婦が急増し、「日本国籍」の児童相談ケースも増加していた。児童の年齢は乳幼児が大半を占めていた。 5.「生活保護法」に関する制度の適用は5年間で殆ど変化していなかったが、「児童福祉法」「母子保健法」に関する制度の適用件数は急増していた。 6.オーバースティ外国人児童及び妊産婦相談ケースの保健・福祉上の問題が浮き彫りとなり、福祉事務所における援助・対応のあり方が、今後の検討課題であった。 以上、本論文によって、本邦ではじめて全国的な在日外国人の現状をあらわす国籍(出身地)別・年次別母子保健統計・健康指標が作成された。その結果、「新しい外国人」ニューカマー及びオーバースティの外国人母子が母子保健上のハイリスクグループであることを明らかにした。本研究は、母子保健学研究、疫学的研究として、又、保健、医療、福祉等の健康施策・行政面での貴重な資料として、重要な貢献をなすと考えられ、よって学位の授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/50961 |