HLA(ヒト主要組織適合抗原;Human leucocyte-associated antigen)クラスI抗原の多型的部位(Polymorphic determinants)に対して特異的なマウスモノクローナル抗体は、HLAタイピングや様々なHLAの研究において大変有用である。 しかし、HLAクラスI抗原をマウスに免疫すると、マウスはHLA分子のxenoの抗原決定基を強く認識するため、クラスI分子の共通部位を認職するようなmonomorphicな抗体が強く産生されて、通常の細胞融合などの方法によってはpolymorphicなマウスモノクローナル抗体は限られた種類しか得られていない。そのため、HLAクラスI抗原のタイピングは現在もヒト由来のアロ抗血清を用いた古典的な補体依存性細胞傷害試験によっている。 そこで、マウスにHLAクラスI分子に対するアロ抗体産生を誘導することを目的として、C3Hマウス受精卵にHLAクラスI遺伝子を導入し、免疫されたHLAクラスI抗原をアロ抗原として認識するようなHLAクラスIトランスジェニックマウス(TGM)を作成した。 樹立したHLAクラス1B51TGMは、フローサイトメトリーにより解析したところ末梢血リンパ球や胸線細胞などの体細胞表面上にHLA-B51分子を発現していることがわかった。(図1) 図1 体細胞上のHLAクラスI分子の発現縦軸;細胞数 PBL;末梢血リンパ球 横軸;蛍光強度 Thymus;胸線細胞 また、HLA-B51抗原を遺伝子導入したマウスL細胞を免疫し、マウス抗血清について様々なHLAクラスI抗原を1種類ずつ発現させたヒトBリンバ球細胞ライン(Hmy-HLA)を用いて補体依存性細胞傷害試験を行った結果、B51TGMはクラスI抗原にmonomorphicな抗体を産生するC3H/Heマウスと異なり、HLAクラスI抗原に対する抗体産生をまったく行わずトレランスを示した(図2)ことにより、B51抗原を自己抗原(self-antigen)として認識していることが明らかになった。 図2 B51抗原免疫に対する抗体産生縦軸;死細胞率 横軸;Hmy-HLA マウスの抗血清を3段階(50×,250×,1250×)に希釈した結果を左から高濃度順に棒グラフで表した 更に様々なHLAクラスI抗原を免疫してこのHLA-B51TGMのアロ抗体産生能を補体依存性細胞傷害試験により解析したところ、通常のC3HマウスがHLA-A,B,Cいずれの抗原の免疫によっても、その抗血清がmonomorphicな特異性を示したのに対しHLA-B51TGMは明らかに、HLA-A,B抗原の免疫によって、クラスI抗原分子に共通な抗原決定基に対する抗体産生は抑制されており、その血清中に多少のcross-reactivityはあるもののpolymorphicな抗体を産生していることがわかった。(表1、表2) これに対し、HLA-C抗原の免疫によっては補体依存性細胞傷害試験(表3)、フローサイトメトリー法(図3)両法において、HLAクラスI抗原に対する抗体産生は殆ど見られなかったことから、HLA-C抗原はこのHLA-B51TGMにおいてはアロ抗原性が非常に低いことが示唆された。この結果は、ヒトアロ抗血清においてもHLA-C抗原に対して特異性の高い試薬が得られにくいという現状とも合致している。 図表Table1. Pro〓hiction of allefnl ipoxllc〓 In HLA-B51 lcansgebic mics lmmvnirsd HLA-A a〓lgcru / Table2. Pro〓hiction of allcanllbodios In HLA-B51 lra〓v〓calc mics lmmcnlLcd wld HLA-B pnugcno. / Table3. Produevon of alln〓nlloodlos In HLA-B51 ran〓genls mics lmmunlicd wluh HLA-C 〓Vc〓図3 HLA-C抗原を免疫したマウス抗血清のアロ抗体のFACS解析による検出横軸:蛍光強度 抗血清はいずれも50倍希釈 尚、これらの結果は、異なるハプロタイプのマウスをHLA-B51TGMにかけあわせて作成したF1マウスを免疫動物に用いてもまったく同様であったことから、マウスのH-2はこのHLA-C抗原に対するアロ抗体産生の欠損に影響を与えていないことが明らかになった。 次に、このHLA-B51TGMを免疫動物として、HLAクラスIA,B抗原に対して多型性を示すマウスモノクローナル抗体(MoAb)の作製を試みたところ、Hmy-HLAを免疫原として用いることにより、A抗原に対する抗体を中心にいくつかのMoAbを樹立できた。これらのMoAbの特異性をHmy-HLAを標的細胞として酵素免疫抗体法を用いて解析した結果を図4に示す。これによると、HLA-B51TGM由来のMoAbは免疫原と同ローカス内ではいくらかのcross-reactivityを示すものの、通常のC3H/Heマウス由来のMoAbに比較して明らかにアロ特異性が高く、その組合せにより、HLAクラスI抗原を効率よく同定出来る可能性があることが示唆された。 図4 モノクローナル抗体の特異性解析縦軸;490nmでの吸光度 横軸;Hmy-HLA ( );マウスIgクラス 抗体;HLA-B51由来3G11,1D2,1H9,1D11,2G3,1H5,3D11 C3H/He由来4E12 W6/3、2 クラスI monomorphic HAT HAT培養液 これらの結果から、HLAクラスITGMはHLA関連疾病モデルとしての可能性やHLAクラスI分子の生体内での機能と役割を解明する免疫応答の実験モデルとして有効であるばかりでなく、近い将来、ヒト由来アロ抗血清に代替するようなHLAクラスIMoAbを作製するためのrecipientsとして有効であることがわかった。また、今回樹立されたようなMoAbを用いれば、HLAクラスI抗原の同定を酵素免疫抗体法や間接蛍光抗体法などのいわゆるbinding assayによって行うことの出来る可能性がある。これにより、古典的な現在のクラスI抗原の同定法にかわる新しい自動化可能なタイピングシステムを開発して将来の輸血や臓器移植に寄与することが期待できる。 |