No | 124974 | |
著者(漢字) | 川上,拓志 | |
著者(英字) | KAWAKAMI,Hiroshi | |
著者(カナ) | カワカミ,ヒロシ | |
標題(和) | 一般大久保型方程式とミドルコンボルーション | |
標題(洋) | Generalized Okubo systems and the middle convolution | |
報告番号 | 124974 | |
報告番号 | 甲24974 | |
学位授与日 | 2009.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(数理科学) | |
学位記番号 | 博数理第329号 | |
研究科 | 数理科学研究科 | |
専攻 | 数理科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Fuchs型方程式においては,各確定特異点のまわりでの局所的な多価性を記述する量として特性指数という複素数が定義される.では逆に,特異点の位置を決めて,そこで特性指数を与えたとき,方程式は一意に定まるかというと,一般には定まらない.特性指数を与えたときに決まらない方程式のパラメータをアクセサリーパラメータという.また,アクセサリーパラメータを持たないという性質をKatzに従ってrigidと呼ぶことにする. 有名なGaussの超幾何方程式はrigidな方程式であり,rigidな方程式については,そのモノドロミーが特性指数によって具体的に記述できることがわかっている. 従って,rigidなFuchs型方程式によって決まる関数を,超幾何関数の仲間として研究することは興味深いと思われる. Katzは,Fuchs型方程式をFuchs型方程式にうつすmiddle tensor operationとmiddle convolutionという操作を導入し,全ての既約かつrigidなFuchs型方程式は一階のFuchs型方程式に上の2つの操作を有限回施すことで得られることを示した.これは全ての既約かつrigidなFuchs型方程式を構成するアルゴリズムを与えている.また,DettweilerとReiterはそれらの操作を線型代数的に記述し直している.論文ではDettweilerとReiterの用語に従い,middle tensor operationの代わりにadditionと呼んでいる. 一方,横山利章氏は,大久保型方程式に対する拡大と縮小という操作を導入し,既約,rigidな半単純大久保型方程式は一階の大久保型方程式にその2つの操作を有限回施すことで得られることをほぼ同時期に示した.ここで大久保型方程式とは〓という形の線型常微分方程式系である.但しTは定数対角行列,Aは定数行列である.実はmiddle convolutionも大久保型方程式と関連している(後で述べる). 以上はFuchs型方程式に対する理論であるが,特殊関数には,Fuchs型ではない方程式によって定義されるものも多く存在するので,これらの理論を不確定特異点を持つ方程式も扱えるように拡張することには意義があると思われる. 本論文は2つの部分から成っている.第I部では,Katzの2つの操作のうち非自明なmiddle convolutionを,非Fuchs型方程式に対してどのようにして拡張すればよいかについて考察した.そのために,大久保型方程式を不確定特異点を持つように一般化し,その一般大久保型方程式の集合GOから大久保型とは限らない方程式(但し無限遠は確定特異点とする)の集合εへの写像πを定義した.また,普通の意味での大久保型方程式の集合をO,Fuchs型方程式の集合をFとする(正確な定義は本論文参照).その上で,まず写像πによるKatz-Dettweiler-Reiterのmiddle convolutionの解釈を与えた.これによると,middle convolutionは,与えられたFuchs型方程式を大久保型方程式に変換し,右辺の行列をスカラー行列でずらし(これをTλと表す),再びπでうつすことに対応する.従って同様の手続きによって非Fuchs型方程式に対するmiddle convolutionの類似物が定義できる.第I部の主結果として,このπの全射性を示した.これは言い換えると,任意の(無限遠を確定特異点に持つ)線型常微分方程式系は一般大久保型方程式に変換できることを意味している.第I部の最後に,非Fuchs型方程式に対するmiddle convolutionの計算の具体例として,Painleve第IV,第V方程式に付随する線型方程式を扱い,Backlund変換が得られることを示した. 第II部では特異点の合流との関係について述べた.任意の4∈εに対して,パラメータεを含むFuchs型方程式A(ε)∈Fで,ε→0の極限でA(ε)→Aとなるものを構成することができる.これはAの各不確定特異点の周りに確定特異点を適当に散らすことで実現できる. このとき,A,A(ε)の各々に対応する大久保型方程式にも上の極限と両立するように合流を定義できることを示したのが第II部の結果である. | |
審査要旨 | Fuchs型方程式系の標準系であるシュレージンガー系〓は,特性指数以外のパラメータ,これをアクセサリーパラメータという,を多数含む。もし,考えている微分方程式がアクセサリーパラメータを含んでいないならば,このような微分方程式はrigidである,という。Fuchs型微分方程式の典型例であるGaussの超幾何方程式はrigidであり,モノドロミーを始め,その大域解の振る舞いは具体的に記述できる。一般に,rigidな微分方程式については,そのモノドロミーが特性指数によって具体的に記述できることがわかっている. このrigidという概念を導入したN.M.Kazeは,Fuchs型方程式をFuchs型方程式にうつす2つの操作を考え,この2つの操作を1階のFuchs型方程式に有限回施すことにより全ての既約かつrigideなFuchs型方程式が得られることを示した。後にM.DettweilerとS.ReiterはこのKatzの操作を線型代数的に記述し直し,これらをmiddle tensor operation,middle convolutionと呼んだ。これにより,全ての既約かつrigidなFuchs型方程式を構成するアルゴリズムが与えたれたことになる。 一方,T.Yokoyamaは,大久保型方程式に対するextensionとrestrictionという操作を導入し,任意の既約,rigid,半単純な大久保型方程式は階数1の大久保型方程式にextensionとrestrictionを有限回施すことで得られる,という結果を,上述の諸結果とほぼ同時期に示している。大久保型方程式とは,Tを定数対角行列,Aを定数行列,としたとき〓という形の線型常微分方程式系である。 これらの理論は,いずれもFuchs型微分方程式に関するものであるが,これを不確定特異点を持つ微分方程式に対しても有効に拡張することは当然必要である。 提出論文は,Katzの2つの操作のうち非自明なmiddle convolutionの,非Fuchs型方程式に対する拡張を考察した第I部と,特異点の合流について調べた第II部との2つの部分から成っている。主要部である第I部では,不確定特異点を持つように拡張した一般大久保型方程式〓が対象である。ここで,Rは対角行列,TはJordon行列である。一般大久保型方程式は,x=∞は確定特異点であるが,それ以外の特異点は不確定型である。 まず普通の意味での大久保型方程式の集合をO,シュレージンガー系の集合をFとし,OからFへの写像πを定義する。大久保型方程式において右辺のAをA+λI に変える変換をTλとするとKatz-Dettweiler-Reiterのmiddle convolution mcλについて,次の図式が得られる。〓 このようにmiddle convolutionを解釈すると,必ずしもFuchs型とは限らない微分方程式系に対しても,middle convolutionの類似物が定義できる。すなわち,一般大久保型方程式の集合GOから,x=∞は確定特異点である微分方程式系の集合εへの写像πを定義し.次の図式が成り立つようにする。〓 主結果は次の定理である。 定理π は全射である。 提出論文の第I部の結果をまとめると次の通りである。 1. OとGOの場合についてπ を構成したこと。 2. 上の2通りの場合についてπの全射性を示したこと。 3. ε の方程式に対してもmiddle convolutionの概念を拡張したこと。 4. 拡張されたmiddle convolutionの計算の具体例として,Painleve第IV,第V方程式に付随する線型方程式を扱い,Backlund変換が得られることを示したこと。 第II部では,εの任意の方程式Eに対して,パラメータεを含むFuches型方程式E(ε)∈Fで,ε→0の極限でE(ε)→Eとなるものを構成した。このとき,E,E(ε)の各々に対応する(一般)大久保型方程式にも,上の極限と両立するように合流を定義できることを示した。 提出論文で考察されている問題は自然なものであるが,その研究は始められたところである。rigidな微分方程式に関する精緻な結果などが今後の課題となり,今後の研究の進展が期待される。よって,論文提出者川上拓志は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/28161 |