No | 121938 | |
著者(漢字) | 山本,成一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマモト,セイイチ | |
標題(和) | IPマルチキャストにおけるトラフィックエンジニアリングに関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121938 | |
報告番号 | 甲21938 | |
学位授与日 | 2006.12.21 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(情報理工学) | |
学位記番号 | 博情第108号 | |
研究科 | 情報理工学系研究科 | |
専攻 | 電子情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は,「IPマルチキャストにおけるトラフィックエンジニアリングに関する研究」(英訳:A study of traffic engineering for IP multicast)と題し,インターネットにおけるIPマルチキャストルーティングアーキテクチャの構成要件に対し,IPユニキャストルーティングアーキテクチャと比較しながら抽出及び整理を行い,IPマルチキャストルーティングアーキテクチャにおけるトラフィックエンジニアリングシステムの提案および評価をおこなっている.本論文は,7章から成り立っており,IPマルチキャストルーティングアーキテクチャの構成要素に対し,誘導経路情報を用いたトラフィックエンジニアリングアーキテクチャフレームワーク(IRIDES)を応用して,運用における知見を基にした,実現的,実用的なIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの提案をおこなっている.本論文の新規性としては,(1)従来のIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャでは,既存ネットワーク構成に対し,特殊な条件を必要とする実現性の低いアーキテクチャであることや,既存ネットワーク構成に適用可能であっても,障害時の堅牢性を伴わない実用性の低いアーキテクチャであったため,本論文では,IPマルチキャストアーキテクチャの構成要素の分析結果から,既存ネットワークへの適用において実現性が高く,また運用時での管理自由度も高い実用的なIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの提案をおこなっていること,(2)上記の提案に基づき,現在のインターネットでの実質的なマルチキャストルーティングプロトコルであるPIM-SMに対する,トラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計,実装および検証をおこなったこと,の2点に集約できる. 第1章では,「序論」として,現在のインターネット環境における様々な要求から導引されるIPマルチキャストサービスの必要性を指摘し,その運用において,トラフィックエンジニアリングは,IPユニキャストルーティングに対してのみならず,IPマルチキャストルーティングにおいても必要であることを指摘している.特に,社会基盤化していくインターネット環境は,既存のIPユニキャストサービス中心の通信形態に対して,今後数年の内に,多くの放送型サービスが導入されていく事を考慮すると,IPマルチキャストサービスの安定運用は,一般的なネットワークサービスにおける必須条件となることを指摘している.しかし,安定したネットワーク運用サービスに必要なトラフィックエンジニアリング技術では,実現的,実用的な手法が,IPユニキャストに対する手法のみに限られているのが実状であるため,本論文の研究目的として,既存のIPマルチキャストアーキテクチャに対し,早急に実現的,実用的であるトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計および実装を提案している. 第2章では,「マルチキャストアーキテクチャと技術課題」として,IPマルチキャストアーキテクチャにおいて,既存のIPルーティングアーキテクチャとして多用されるIPユニキャストアーキテクチャに対し,ルーティングアーキテクチャの基本要素である"アドレッシング","経路作成アーキテクチャ","ループ防止アーキテクチャ"の点での比較をもとに,IPマルチキャストアーキテクチャモデルの構成要素の整理をおこなっている.また,IPマルチキャストアーキテクチャに対し,既存ネットワークの運用例での知見を紹介し,既存アーキテクチャでの問題点指摘をおこなっている. 第3章では,「既存マルチキャストTE」として,既存IPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの調査をおこない,本論文に先行するいずれのトラフィックエンジニアリングアーキテクチャも,実現的,実用的な観点からは,有効に機能するものが無い事を示し,アーキテクチャ的な視点からの分析を含む,IPマルチキャストにおけるトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの提案が新規に必要なことを確認している. 第4章では,「提案マルチキャストTE」として,前述のIPマルチキャストの構成要件より,誘導経路情報を用いたトラフィックエンジニアリングフレームワーク(IRIDES)を応用し,既存IPマルチキャストルーティングアーキテクチャに対し,早急に実現的,実用的であるという条件を満足する,トラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計を提案している.この提案より,既存ネットワークに対するトラフィックエンジニアリングアーキテクチャ実装の一例として,PIM-SMで構成されたIPマルチキャストルーティング環境におけるトラフィックエンジニアリングシステムの設計および実装をおこなっている. 第5章では,「実証評価」として,前章で実装をしたトラフィックエンジニアリングシステムに対し,実証評価として,以下の2例を示している.(1)"IPユニキャスト経路情報とIPマルチキャスト経路情報を独立させた経路制御例"(2)"IPユニキャスト経路情報とIPマルチキャスト経路情報を独立させた後,さらにIPマルチキャスト経路において,マルチキャストグループ毎に経路情報を独立させた経路制御例".上述の例より,実ネットワークサービス上で発生しうる,IPユニキャストサービスとIPマルチキャストサービスが混在する環境において,IPユニキャストフローとIPマルチキャストフローとが,それぞれに独立した経路制御が実現可能となることを検証している. 第6章では,「考察」として,本論文で提案したIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャは,IPマルチキャストルーティングアーキテクチャの構成要素に対して設計されたものであるため,(1)ルーティングプロトコルとは独立したトラフィックエンジニアリングアーキテクチャであり,前章で検証した,IPv4上でのPIM-SMプロトコル以外を利用する状況においても,本研究での提案が適用可能であること,(2)IPマルチキャストの構成要素に対し,何ら制限を設けることなく適用可能であり,そのために,対象ネットワークに対するスケーラビリティ的な制限は発生せず,また,通常運用での実用的なネットワークトポロジ構成の妥当性検討より,前章で検証用に利用したネットワーク構成は妥当性をもつこと,を議論している. 最後に,第7章では,「まとめ」として,本論文での議論の総括と,今後の課題について述べている. 以上,本論文は,(1)IPマルチキャストルーティングシステムに対して,アーキテクチャ的な観点からの分析を行い,早急に実現的,実用的なIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャフレームワークを提案した.(2)上記の提案に基づき,現在のインターネットでの実質的なマルチキャストルーティングプロトコルであるPIM-SMプロトコルに対する,トラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計,実装および検証をおこなった. | |
審査要旨 | 本論文は,「IPマルチキャストにおけるトラフィックエンジニアリングに関する研究」(英訳: A study of traffic engineering for IP multicast)と題し,インターネットにおけるIPマルチキャストルーティングアーキテクチャの構成要件に対し,IPユニキャストルーティングアーキテクチャと比較しながら抽出及び整理を行い,IPマルチキャストルーティングアーキテクチャにおけるトラフィックエンジニアリングシステムの提案および評価をおこなっている.本論文は,7章から成り立っており,IPマルチキャストルーティングアーキテクチャの構成要素に対し,誘導経路情報を用いたトラフィックエンジニアリングアーキテクチャフレームワーク(IRIDES)を応用して,運用における知見を基にした,実現的,実用的なIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの提案をおこなっている.本論文の新規性としては,(1)従来のIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャでは,既存ネットワーク構成に対し,特殊な条件を必要とする実現性の低いアーキテクチャであることや,既存ネットワーク構成に適用可能であっても,障害時の堅牢性を伴わない実用性の低いアーキテクチャであったため,本論文では,IPマルチキャストアーキテクチャの構成要素の分析結果から,既存ネットワークへの適用において実現性が高く,また運用時での管理自由度も高い実用的なIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの提案をおこなっていること,(2)上記の提案に基づき,現在のインターネットでの実質的なマルチキャストルーティングプロトコルであるPIM-SMに対する,トラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計,実装および検証をおこなったこと,の2点に集約できる. 第1章では,「序論」として,現在のインターネット環境における様々な要求から導引されるIPマルチキャストサービスの必要性を指摘し,その運用において,トラフィックエンジニアリングは,IPユニキャストルーティングに対してのみならず,IPマルチキャストルーティングにおいても必要であることを指摘している.特に,社会基盤化していくインターネット環境は,既存のIPユニキャストサービス中心の通信形態に対して,今後数年の内に,多くの放送型サービスが導入されていく事を考慮すると,IPマルチキャストサービスの安定運用は,一般的なネットワークサービスにおける必須条件となることを指摘している.しかし,安定したネットワーク運用サービスに必要なトラフィックエンジニアリング技術では,実現的,実用的な手法が,IPユニキャストに対する手法のみに限られているのが実状であるため,本論文の研究目的として,既存のIPマルチキャストアーキテクチャに対し,早急に実現的,実用的であるトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計および実装を提案している. 第2章では,「マルチキャストアーキテクチャと技術課題」として,IPマルチキャストアーキテクチャにおいて,既存のIPルーティングアーキテクチャとして多用されるIPユニキャストアーキテクチャに対し,ルーティングアーキテクチャの基本要素である"アドレッシング","経路作成アーキテクチャ","ループ防止アーキテクチャ"の点での比較をもとに,IPマルチキャストアーキテクチャモデルの構成要素の整理をおこなっている.また,IPマルチキャストアーキテクチャに対し,既存ネットワークの運用例での知見を紹介し,既存アーキテクチャでの問題点指摘をおこなっている. 第3章では,「既存マルチキャストTE」として,既存IPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの調査をおこない,本論文に先行するいずれのトラフィックエンジニアリングアーキテクチャも,実現的,実用的な観点からは,有効に機能するものが無い事を示し,アーキテクチャ的な視点からの分析を含む,IPマルチキャストにおけるトラフィックエンジニアリングアーキテクチャの提案が新規に必要なことを確認している. 第4章では,「提案マルチキャストTE」として,前述のIPマルチキャストの構成要件より,誘導経路情報を用いたトラフィックエンジニアリングフレームワーク(IRIDES)を応用し,既存IPマルチキャストルーティングアーキテクチャに対し,早急に実現的,実用的であるという条件を満足する,トラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計を提案している.この提案より,既存ネットワークに対するトラフィックエンジニアリングアーキテクチャ実装の一例として,PIM-SMで構成されたIPマルチキャストルーティング環境におけるトラフィックエンジニアリングシステムの設計および実装をおこなっている. 第5章では,「実証評価」として,前章で実装をしたトラフィックエンジニアリングシステムに対し,実証評価として,以下の2例を示している.(1)"IPユニキャスト経路情報とIPマルチキャスト経路情報を独立させた経路制御例"(2)"IPユニキャスト経路情報とIPマルチキャスト経路情報を独立させた後,さらにIPマルチキャスト経路において,マルチキャストグループ毎に経路情報を独立させた経路制御例".上述の例より,実ネットワークサービス上で発生しうる,IPユニキャストサービスとIPマルチキャストサービスが混在する環境において,IPユニキャストフローとIPマルチキャストフローとが,それぞれに独立した経路制御が実現可能となることを検証している. 第6章では,「考察」として,本論文で提案したIPマルチキャストトラフイックエンジニアリングアーキテクチャは,IPマルチキャストルーティングアーキテクチャの構成要素に対して設計されたものであるため,(1)ルーティングプロトコルとは独立したトラフィックエンジニアリングアーキテクチャであり,前章で検証した,IPv4上でのPIM-SMプロトコル以外を利用する状況においても,本研究での提案が適用可能であること,(2)IPマルチキャストの構成要素に対し,何ら制限を設けることなく適用可能であり,そのために,対象ネットワークに対するスケーラビリティ的な制限は発生せず,また,通常運用での実用的なネットワークトポロジ構成の妥当性検討より,前章で検証用に利用したネットワーク構成は妥当性をもつこと,を議論している. 最後に,第7章では,「まとめ」として,本論文での議論の総括と,今後の課題について述べている. 以上のように,本論文は,(1)IPマルチキャストルーティングシステムに対しで,アーキテクチャ的な観点からの分析を行い,早急に実現的,実用的なIPマルチキャストトラフィックエンジニアリングアーキテクチャフレームワークを提案したこと,(2)上記の提案に基づき,現在のインターネットでの実質的なマルチキャストルーティングプロトコルであるPIM-SMプロトコルに対する,トラフィックエンジニアリングアーキテクチャの設計,実装および検証をおこなったこと,の2点は従来では存在しなかった手法であり,インターネットコミュニティおよび情報理工学分野に対する貢献は少なくない. よって,本論文は博士(情報理工学)の学位論文として認められる. | |
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