No | 118759 | |
著者(漢字) | 久野,順一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | キュウノ,ジュンイチ | |
標題(和) | ツメガエル NDRG1 の同定と解析 | |
標題(洋) | Identification and characterization of Xenopus laeuis NDRG1 | |
報告番号 | 118759 | |
報告番号 | 甲18759 | |
学位授与日 | 2004.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博総合第478号 | |
研究科 | 総合文化研究科 | |
専攻 | 広域科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | A6細胞は、アフリカツメガエルの腎臓に由来する上皮性の培養細胞であり、コンフルエントに達すると自発的にドーム構造を形成する。ドームは、細胞内極性の形成による一定方向への物質輸送、細胞間の緊密な接着による細胞間隙を介した物質透過性の制御といった上皮細胞としての性質を反映するものであり、腎臓の管腔構造の形成を模倣すると考えられる。これまでに当研究室における先行研究によって、三次元クリノスタットを用いた培養(クリノローテーション)によりA6細胞のドーム形成が阻害されることが明らかになっていた。本研究では、ツメガエルの前腎発生に関わる遺伝子を得ることを目的として、クリノローテーション時のA6細胞において発現量の変化する遺伝子の探索を試みた。 まず、A6細胞の形態を詳細に観察するためにアクチン繊維を染色したところ、クリノローテーション時のA6細胞では、上皮性細胞の特徴である表層アクチン・バンドが部分的にしか形成されていないことが示された。この時、静置培養時では、表層アクチン・バンドが細胞の頭頂側に、ストレス・ファイバーが基底側に観察されたのに対して、クリノローテーション時では、表層アクチン・バンドとストレス・ファイバーが同時に観察され、細胞内極性の形成が不完全であることが示唆された。この結果は電子顕微鏡による観察でも確認され、クリノローテーション時のA6細胞では静置培養時に比べ、接着帯が貧弱になっており、そこに付着したアクチン繊維も少ないことが示された。そこで、細胞の形態変化や前腎発生に関わる遺伝子を得ることを目的として、10日間の静置培養とクリノローテーションを行ったA6細胞の間で、マイクロアレイを用いて遺伝子発現を比較した。発現量が変化する遺伝子の候補としてESTクローンXL043e17が得られ、その塩基配列を決定したところ、マウス、ヒトではすでに報告されているN-myc downstream-regulated gene-1 (NDRG1)と高い相同性を示す遺伝子であった。そのアミノ酸配列をマウスとヒトのNDRG1と比較すると、XL043e17はN末端の47アミノ酸残基を欠くものの、その他の部分では、 それぞれに75.0%、75.9%と高い相同性を示した。そこで、私はXL043e17をXenopus laevis N-myc downstream-regulated gene-1 (xNDRG1)と名付けた。Northern blot analysisにより、xNDRG1の発現量はクリノスタットを用いて10日間培養したA6 細胞で顕著に増加し、培養15日目でも発現量の増加が維持されることが示された。この発現量の増加は、形態変化が観察される時期と一致した。xNDRG1の発現量の増加は、遠心機を用いた7xg, 3xgの加重力条件での培養、培地交換を行わない静置培養では起こらず、クリノローテーションに依存していることが示された。また、NDRG1の発現を活性化することが知られているhypoxia inducible factor-1α(HIF-1α)の発現量が10日間のクリノローテーションによって増加することが示され、クリノローテーション時のxNDRG1の発現量の増加はHIF-1を介していることが示唆された。 ヒト、マウスにおける先行研究により、NDRG1はN-mycによって発現が抑制される遺伝子であり、肢芽、肺、胃、肝臓、心臓、腎臓、中枢/抹消神経系などの器官に異常が見られるN-myc変異マウスにおいて過剰に発現することが明らかにされていた。しかし、その生体内での機能的役割についての報告はなかった。そこで、xNDRG1の生体内での役割を探るため、ツメガエル初期胚における発現パターンと機能の解析を試みた。ツメガエルの発生過程におけるxNDRG1の発現は、RT-PCRによってステージ15より検出され、ステージ20までに顕著に増加し、その後は発生過程を通して維持されることが明らかになった。また、Whole-mount in situ hybridizationによって、xNDRG1の発現は前腎、目、鰓弓、尾芽において認められ、前腎では尾芽胚期から強く発現し、前腎が機能し始めるStage37/38以降になると発現量が低下することが示され、xNDRG1が分化決定後の分化、形態形成期の前腎において強く発現する遺伝子であることが明らかになった。 xNDRG1の前腎発生における役割を調べるために、ツメガエル胚の予定前腎領域へmRNAを微量注入することによって、xNDRG1を過剰発現させたところ、前腎と体節の形態に異常が観察され、xNDRG1が前腎の形態形成に関わることが示唆された。また、モルフォリーノ・オリゴマーの微量注入によるxNDRG1の翻訳阻害によって、前腎の形成が阻害され、xNDRG1が前腎の形成に必要とされる事が明らかになった。 以上の研究を通して、クリノローテーション時のA6細胞で発現量が変化するxNDRG1が前腎発生に必須であることが示された。また、クリノローテーション時のA6細胞では、形態、遺伝子発現の変化を伴う分化状態の遷移が起こっていることが示唆された。このことから、A6細胞のクリノローテーションを、前腎発生に関わる遺伝子を探索するための新しい実験系として用いることができる可能性が示された。 | |
審査要旨 | 本研究では、ツメガエルの前腎発生に関わる遺伝子を得ることを目的として、微小重力環境を模擬すると考えられている3次元クリノスタットでの培養(クリノローテーション)を行ったA6細胞において、発現量の変化する遺伝子の探索を試みている。実験材料として用いたA6細胞は、ツメガエルの腎臓に由来する上皮性の培養細胞であり、コンフルエントに達すると自発的にドーム構造を形成する。このドーム形成は腎臓の管腔構造の形成を模倣するものであると考えられ、クリノローテーションによって阻害されることが報告されていた。 第1章では、クリノローテーション時のA6細胞の形態と遺伝子発現の変化について報告している。クリノローテーション時のA6細胞では、接着帯が貧弱であり、上皮性細胞の特徴である表層アクチン・バンドが部分的にしか形成されず、細胞内極性の形成が不完全であることを示した。また、クリノローテーション時のA6細胞において発現量が増加する遺伝子としてXenopus lavise N-myc downstream-regulated gene 1 (xNDRG1)を同定し、この発現量の増加と形態変化が観察される時期が一致することを示した。xNDRG1の発現量の増加は、遠心機を用いた7xg, 3xgの加重力条件では起こらず、クリノローテーションに依存していることを示した。そして、クリノローテーション時のA6細胞では、形態、遺伝子発現の変化を伴う分化状態の遷移が起こることを明らかにした。 第2章では、xNDRG1の発生過程における発現パターンと機能の解析を行っている。ツメガエルの発生過程におけるxNDRG1の発現は前腎、目、鰓弓、尾芽において認められ、前腎では尾芽胚期から強く発現し、前腎が機能し始めるStage37/38以降になると発現量が低下することを示した。また、mRNAの微量注入によるxNDRG1の過剰発現によって前腎と体節の形態に異常が観察されること、モルフォリーノ・オリゴマーの微量注入によるxNDRG1の翻訳阻害によって前腎発生が阻害されることを示した。このことから、xNDRG1が前腎の分化、形態形成期に強く発現する前腎発生に必須な遺伝子であることが明らかになった。これはNDRG1の発生過程における機能的役割についての初めての報告である。 以上の様に、本研究は、クリノローテーション時のA6細胞で発現量が変化するxNDRG1が前腎発生に必須であることを示し、A6細胞のクリノローテーションが、前腎発生に関わる遺伝子を探索するための新しい実験系として用いられることを明らかにした。 したがって、本審査委員会は博士(学術)の学位を授与するにふさわしいものと認定する。 | |
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