No | 116804 | |
著者(漢字) | 茂木,文夫 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | モテギ,フミオ | |
標題(和) | 分裂酵母においてII型ミオシンが分裂面に集積する機構の解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 116804 | |
報告番号 | 甲16804 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博総合第362号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 細胞が分裂し二つの娘細胞を生じる細胞分裂は、全ての生物にとって必須の過程である。動物細胞では赤道面表層にアクチン繊維とII型ミオシンを主成分とする収縮環が形成され、この収縮により細胞質分裂が行われる。収縮環のミオシンはアクチン繊維と相互作用して収縮力を発していると考えられているが、収縮環形成におけるミオシンの役割は不明である。本研究ではミオシンが分裂面へ局在する仕組みと収縮環形成における役割を解析することにより、収縮環形成の時間的・空間的な制御機構を明らかにすることを目的としている。 このため私は分裂酵母を対象生物とし、ミオシン遺伝子の同定とその機能解析を行った。分裂酵母では5種類のミオシン重鎖遺伝子myo1+(Toya et al., 2001)、myo2+(Kitayama et al., 1997)、myo3+(Motegi et al., 1997)、myo4+及びmyo5+(Motegi et al., 2001)が同定されている。このうちII型ミオシン重鎖遺伝子の遺伝子産物Myo2とMyo3は、分裂面に集積しリング構造を形成する。Myo2とMyo3は、細胞抽出液中で共通の軽鎖(Cdc4及びRlc1)と結合していた。どちらか単独のミオシン重鎖遺伝子変異株では分裂面にF-アクチンリング(収縮環)は形成されるが、二重変異株では分裂面でのF-アクチンの集積はみられなかった。以上の結果は、Myo2-Cdc4-Rlc1とMyo3-Cdc4-Rlc1が共同してF-アクチンリングの形成と細胞質分裂に働いていることを示唆する。 分裂期におけるMyo2の動態を、GFP-Myo2発現細胞の経時観察と、抗Myo2抗体を用いた間接蛍光抗体法により解析した。Myo2は間期には特に局在を示さないが、分裂期初期にはFアクチンよりも早く分裂面表層にドット状に一定の幅で集積した。このMyo2ドットは次第に連結して繊維状の構造を形成し、次いでその幅を狭めて緊密なリングを形成した。アクチン細胞骨格の制御に関与するプロフィリン、トロポミオシン、フォルミンのそれぞれの遺伝子変異株では、F-アクチンリングが形成されないが、分裂面周辺にMyo2ドットは集積していた。また、分裂期直前の細胞をラトランキュリンAで処理してF-アクチンを破壊し、その後細胞を分裂期に進行させたところ、F-アクチンが無くてもMyo2ドットは分裂面に集積していた。しかしこれらの細胞では、分裂面のMyo2ドットはリング構造を形成しなかった。これらの結果は、分裂面へのMyo2の集積が、F-アクチン非依存的な表層への集積と、その後のF-アクチン依存的なドットからリングへの構造変化という段階を経て行われることを示唆している。 Myo2のF-アクチン非依存的な分裂面への局在化には、C末端の134アミノ酸(Myo2t-3)領域が必要かつ充分であった。また、Myo2は分裂期から分裂面に集積し始めるが、Myo2t-3は間期の細胞でも分裂面に局在できることが明らかになった。温度感受性変異株を用いた細胞周期の同調により、Myo2t-3はG2/M期の分裂面表層に局在するが、G1期の分裂面には局在しないことを示した。細胞分離直後(G2期初期)からMyo2t-3の分裂面への集積が観察されたことから、Myo2t-3はG2期を通して分裂面に局在できると考えられる。一方、Myo2のC末端280アミノ酸(Myo2t-23)領域は、Myo2と同様にG2期の分裂面には観察されず、分裂期の分裂面には局在していた。従って、間期にはMyo2t-3のN末側領域(Myo2t-2)がMyo2t-3領域の局在化を負に制御していると推測される。Myo2t-3とMyo2t-2を別々に発現させても、Myo2t-3のG2期分裂面への集積は阻害されなかった。また、Myo2t-2領域とMyo2t-3領域の連結部はβターン構造を作る傾向が強く、折れ曲がった構造をとると予測される。従って、Myo2t-2とMyo2t-3は分子内で相互作用している可能性がある。分裂面局在能のあるMyo2t-3は、in vitroの実験で生理的イオン強度下において会合した。従って、Myo2t-3領域は、細胞内でも会合し分裂面に局在するようになると考えられる。以上の結果から、Myo2は分裂期特異的にMyo2t-3領域とMyo2t-2領域との分子内相互作用を解除することでMyo2t-3領域による分子間での会合を促進し、分裂面に局在するようになると推測される。 次にMyo2の分裂面への局在化は、収縮環位置の決定因子Mid1に依存していることを明らかにした。mid1△細胞では、Myo2t-3のG2期における分裂面への局在化および分裂期でのMyo2の分裂面への局在化がおこらなかった。Myo2t-3と同様に、Mid1もF-アクチンおよび微小管に依存せずG2期初期から分裂面表層に局在することが示されている(Paoletti & Chang, 2000)。従って、Myo2はMid1による分裂面位置のシグナルを受けて分裂面表層に集積し、その後の収縮環形成を正しい位置に誘導していると考えられる。 Myo2t-3領域は分裂面への局在化と共に、分裂面でのF-アクチン構造の編成にもはたらく可能性が示唆された。Myo2t-3の過剰発現は、収縮環形成を阻害し、分裂面にF-アクチンの異常なスポット構造を形成させた。従って、Myo2t-3はMyo2以外のF-アクチン構造の編成にはたらく因子の機能を阻害していると推測される。また、Myo2t-3領域に変異を持つMyo2を発現している細胞では、変異型Myo2は分裂面に局在するが、収縮環は形成されずF-アクチンスポットの形成がみられた。従って、分裂面に集積したMyo2は、Myo2t-3領域を介してF-アクチン構造の編成に関与している可能性が推測される。 以上の結果より、Myo2が分裂面に集積する時期は、分子内相互作用の調節(これによるMyo2の会合状態の制御)によって決定されると推測される。また、Myo2はMid1依存的に分裂面に集積することで収縮環形成を分裂面に誘導すると同時に、分裂面でのF-アクチン構造の編成(スポット構造からリング構造への再編成)にはたらくことで、収縮環形成に寄与していると考えられる。 参考文献 Toya et al. (2001). Genes to Cells. 6: 187-200. Kitayama et al. (1997). J. Cell Biol. 140: 355-366. Motegi et al. (1997). FEBS Lett. 420: 161-166. Motegi et al. (2001). Mol. Biol. Cell. 12: 1367-1380. Paoletti & Chang (2000). Mol. Biol. Cell. 11: 2757-2773. | |
審査要旨 | 細胞が分裂し二つの娘細胞を生じる細胞分裂は、全ての生物にとって必須の過程である。動物細胞では赤道面表層にアクチン繊維とII型ミオシンを主成分とする収縮環が形成され、この収縮により細胞質分裂が行われる。収縮環のミオシンはアクチン繊維と相互作用して収縮力を発していると考えられているが、収縮環形成におけるミオシンの役割は不明である。論文提出者茂木文夫はミオシンが分裂面へ局在する仕組みと収縮環形成における役割を解析することを目的として研究を行った。 このため分裂酵母を対象生物とし、ミオシン遺伝子の同定とその機能解析を行った。分裂酵母では5種類のミオシン重鎖遺伝子myo1+(Toya et al., 2001)、myo2+(Kitayama et al., 1997)、myo3+(Motegi et al., 1997)、myo4+及びmyo5+(Motegi et al., 2001)が同定されている。このうちII型ミオシン重鎖遺伝子の遺伝子産物Myo2とMyo3は、分裂面に集積しリング構造を形成する。Myo2とMyo3は、細胞抽出液中で共通の軽鎖(Cdc4及びRlc1)と結合していた。どちらか単独のミオシン重鎖遺伝子変異株では分裂面にF-アクチンリング(収縮環)は形成されるが、二重変異株では分裂面でのF-アクチンの集積はみられなかった。以上の結果は、Myo2-Cdc4-Rlc1とMyo3-Cdc4-Rlc1が共同してF-アクチンリングの形成と細胞質分裂に働いていることを示唆する。 次に分裂期におけるMyo2の動態を、GFP-Myo2発現細胞の経時観察と、抗Myo2抗体を用いた間接蛍光抗体法により解析した。Myo2は間期には特に局在を示さないが、分裂期初期にはFアクチンよりも早く分裂面表層にドット状に一定の幅で集積した。このMyo2ドットは次第に連結して繊維状の構造を形成し、次いでその幅を狭めて緊密なリングを形成した。アクチン細胞骨格の制御に関与するプロフィリン、トロポミオシン、フォルミンのそれぞれの遺伝子変異株では、F-アクチンリングが形成されないが、分裂面周辺にMyo2ドットは集積していた。また、分裂期直前の細胞をラトランキュリンAで処理してF-アクチンを破壊し、その後細胞を分裂期に進行させたところ、F-アクチンがなくてもMyo2ドットは分裂面に集積していた。しかしこれらの細胞では、分裂面のMyo2ドットはリング構造を形成しなかった。これらの結果は、分裂面へのMyo2の集積が、F-アクチン非依存的な表層への集積と、その後のF-アクチン依存的なドットからリングへの構造変化という段階を経て行われることを示唆している。 Myo2のF-アクチン非依存的な分裂面への局在化には、C末端の134アミノ酸(t-3領域)が必要かつ充分であった。また、Myo2は分裂期から分裂面に集積し始めるが、t-3は間期の細胞でも分裂面に局在できることが明らかになった。温度感受性変異株を用いた細胞周期の同調により、t-3はG2/M期の分裂面表層に局在するが、G1期の分裂面には局在しないことを示した。細胞分離直後(G2期初期)からt-3の分裂面への集積が観察されたことから、Myo2t-3はG2期を通して分裂面に局在できると考えられる。一方、Myo2のC末端280アミノ酸(t-23領域)は、Myo2と同様にG2期の分裂面には観察されず、分裂期の分裂面には局在していた。従って、間期にはt-3のN末側領域(t-2)がt-3領域の局在化を負に制御していると推測される。t-3とt-2を別々に発現させても、t-3のG2期分裂面への集積は阻害されなかった。また、t-2領域とt-3領域の連結部はβターン構造を作る傾向が強く、折れ曲がった構造をとると予測される。従って、t-2とt-3は分子内で相互作用している可能性がある。分裂面局在能のあるMyo2t-3は、in vitroの実験で生理的イオン強度下において会合した。従って、t-3領域は、細胞内でも会合し分裂面に局在するようになると考えられる。以上の結果から、Myo2は分裂期特異的にt-3領域とt-2領域との分子内相互作用を解除することでt-3領域による分子間での会合を促進し、分裂面に局在するようになると推測される。 次にMyo2の分裂面への局在化は、収縮環位置の決定因子Mid1に依存していることを明らかにした。mid1△細胞では、t-3のG2期における分裂面への局在化および分裂期でのMyo2の分裂面への局在化がおこらなかった。t-3と同様に、Mid1もF-アクチンおよび微小管に依存せずG2期初期から分裂面表層に局在することが示されている(Paoletti & Chang, 2000)。従って、Myo2はMid1による分裂面位置のシグナルを受けて分裂面表層に集積し、その後の収縮環形成を正しい位置に誘導していると考えられる。 t-3領域は分裂面への局在化と共に、分裂面でのF-アクチン構造の編成にもはたらく可能性が示唆された。Myo2t-3の過剰発現は、収縮環形成を阻害し、分裂面にF-アクチンの異常なスポット構造を形成させた。従って、t-3はMyo2以外のF-アクチン構造の編成にはたらく因子の機能を阻害していると推測される。また、t-3領域に変異を持つMyo2を発現している細胞では、変異型Myo2は分裂面に局在するが、収縮環は形成されずF-アクチンスポットの形成がみられた。従って、分裂面に集積したMyo2は、t-3領域を介してF-アクチン構造の編成に関与している可能性が推測される。 以上の結果より、Myo2が分裂面に集積する時期は、分子内相互作用の調節(これによるMyo2の会合状態の制御)によって決定されると推測される。また、Myo2はMid1依存的に分裂面に集積することで収縮環形成を分裂面に誘導すると同時に、分裂面でのF-アクチン構造の編成(スポット構造からリング構造への再編成)にはたらくことで、収縮環形成に寄与していると考えられる。この研究はミオシンの分裂溝への集積の機構を明らかにし、細胞質分裂の分子機構の解明に大きな貢献をした。従って、本審査委員会は博士(学術)の学位を授与するにふさわしいものと認定する。 | |
UTokyo Repositoryリンク |