本論文では、数理ファイナンスに関連する問題を3つ取りあげている。最初に「デフォルト(債務不履行)リスク」についての二つの問題を論じる。一つは、フィルタリングモデルと呼ばれる数学モデルを設定し、ある1次元確率過程の0への初到達時刻.(デフォルト時刻と呼ぶ)の、部分的情報による条件付き分布を考察するという問題で、もう一つは、いわゆるアファイン型のハザード率過程を所与として、デフォルトリスクを含む金融商品の価値評価に必要となる期待値の計算公式を与えるというものである。 次に、「均衡モデルから導出される短期金利モデル」について論じる。生産-消費均衡モデルの均衡の存在、および、短期金利と状態価格の関係についてセミマルチンゲールのクラスで考察している。 Part1.デフォルトリスクに関するあるフィルタリングモデル T>0をある定数、( ,B,(Bt)t∈[0,T],P)をある完備な確率空間とする。また、(Bt),(B’t),(Wt)をそれぞれ独立な1,N1,N2-次元(Bt) ブラウン運動とする。 次で与えられるフィルタリングモデルを考える。 1次元確率過程(Xt)t∈[0,T]、N1-次元確率過程(Zt)t∈[0,T]を次の確率微分方程式の解とする。  , 0,b0は有界で連続微分可能な関数( にはもう少し強い条件を仮定する)とする。 ここで、非負値確率過程(ランダム時刻) を  と定義する。(ただし、 のときは、 ( )=+∞とおくことにする。) この をデフォルト時刻と呼ぶことにする。 N2-次元確率過程(Yt)t∈[0,T]を次の確率微分方程式の解とする。  ただし、 1,b1はやはり有界で連続微分可能な関数とする。また、特に、 は、 ( >0はある定数、 はN2-次元単位行列)を満たすと仮定する。 また、フィルトレーション( )および(Ft)を  と定義する。 とする。このとき、確率測度Pの下で次のDoob-Meyer分解が成り立つ。Nt=Mt+At:Mtは(P,(Ft)t∈[0,T])-マルチンゲール、AtはA0=0を満たす非減少な(Ft)-可予測過程。 以上の設定の下で次の問題を考える。 「 発展的可測過程h(t)で  を満たすものは存在するか、また存在するとき、h(t)はどのような表現を持つか。」 このh(t)は、数理ファイナンスにおいては「ハザード率過程」などと呼ばれるものであり、デフォルトリスクを説明する指標として用いられることが少なくない。 上の問題に対しては、次のように取り組んでいく。まずX,ZとYを独立にし、かつXをブラウン運動とする、Pと同値な確率測度 に変更する。また、 とおく。 以下で、 とし、また、  とする。 定理2.3. tは次の確率積分方程式の解である。  ただし、 (s), (s)は、ある(Ft)-可予測過程。(具体的な形はここでは省略)また、 は、( , )-ブラウン運動。 最終的には、楠岡([3])の結果とあわせて、次の主定理を得る。 定理3.1.  とする( (t;Y), (t;Y)の具体的な表現は省略)とき、h(t)は確率測度Pの下での( )-ハザード率過程である。 上で得られた関係式は、不完全情報の下でのデフォルトリスクモデルについてのDuffie-Lando([2])の主張と結果的に同じものになる。論文中ではさらに、Pの下でのデフォルト時刻 の(Ft)-条件付き分布と、ハザード率過程h(t)との関係についても考察している。 Part 2.アファイン型ハザード率過程を仮定されたデフォルトリスクをもつ金融商品の価値評価 以下では、ハザード率過程h(t)は次のようなアファイン型モデルで与えられると仮定する。  ただし、Bはある1次元ブラウン運動であり、m, は次の形の関数とする。  ただし、mi(t), i(t)(i=1,2)は確定的な関数で、 2≠0かつ  を満たすとする。 さらに、a(t)とb(t)は次の常微分方程式系の解とする。(a, 0とする)  定理1.1.h(t)を[0,T]上、確率微分方程式(2)の解とする。このとき、  ただし、  この結果の応用例として、クレジット・デフォルト・スワップと呼ばれる金融商品の価値評価を論文中では考える。 なお、Part2.の内容は一部、青沼君明氏との共著論文[1]の内容とも関連している。 Part 3.均衡モデルから導出される短期金利モデルについての一考察 短期金利が均衡理論の枠組みからどのように説明できるか、ひいては、何らかの均衡条件によって経済学のスキームに相反しない短期金利モデルのクラスが制限されるか、という問題を考える。 ( ,F,P)を完備な確率空間、(Ft)t∈[0,T]を通常の仮定を満たすフィルトレーションとする。また、L={(xt)t∈[0,T] R-値発展的可測過程 とする。 Xを連続セミマルチンゲールとし、i=1,・・・,mに対し、Ui:L+→Rを増加関数とする。さらに、 とおく。 定義1.2. 生産-消費均衡とは、次の条件を満たす確率過程の集まり[(S*, *), *,(ci*, i*)], (0) *は正値セミマルチンゲール (1) *が次の最大化問題の解:   (3)各i(i=1,・・・,m)に対し、(ci*, i*)が次の最大化問題の解:  (4) 特に、この *を状態価格過程と呼ぶ。 生産-消費均衡の存在については、 定理1.5.m=1とする。また、 (x,t)をux(x,t)のxについての逆関数とする。 次の条件を満たす正値局所マルチンゲールNが存在すると仮定する。 (1) (2) はマルチンゲール。ただし、  このとき、  は生産-消費均衡、ただし、  以下、m=1かつ >0はある定数)として考える(これをLOGモデルと呼ぶことにする)。 Aを、状態価格過程を標準分解したときの有限変動項とする。  を満たす確率過程R考え、特にdRt=rtdtとなるとき、rを短期金利過程と呼ぶ。 次のような設定を考える。 Yを次の確率微分方程式の解とする。(Bは(Ft)-ブラウン運動とする。)  また、Xが  を満たすとする。(実際には、係数の微分可能性や解のある種の可積分性など、適当な条件を課す) このとき、短期金利と生産-消費均衡の関連を述べる結果として次を得た。 定理3.5.短期金利過程rは、Pと互いに絶対連続な確率測度Qの下で、 の偏導関数、 , , から決まる関数 , を用いて  と表される。ただし、Qは次で決まる。  また、 はQの下での標準ブラウン運動である。 特に、 がxについて、単調なとき、  と表される。 参考文献[1]Aonuma,K.and Nakagawa,H.:Valuation of Credit Default Swap and Parameter Estimation for Vasicek-type Hazard Rate Model.Submitted(1998).[2]Duffie,D.,Lando,D.:Term Structure of Credit Spreads with Incomplete Accounting Information.Working paper(1998)[3]Kusuoka,S.:A Remark on default risk models Models.Adv.Math.Econ.1,69-82(1999)[4]Nakagawa,H.:Valuation of Default Swap with Affine Class Hazard Rate.Proceedings of the Japan Academy,Vol.75,Series A,No.3,43-46(1999).[5]Nakagawa,H.: A Remark on Spot Rate Models Induced by an Equilibrium Model.J.Math.Sci.Univ.Tokyo,6,453-475(1999). |