学位論文要旨



No 115520
著者(漢字) 松原,利治
著者(英字)
著者(カナ) マツバラ,トシハル
標題(和) 局所系及びHodge構造の退化に関するLog幾何学の応用
標題(洋)
報告番号 115520
報告番号 甲15520
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第140号
研究科 数理科学研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加藤,和也
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 堀川,穎二
 東京大学 助教授 寺杣,友秀
内容要旨

 本論文ではFontaine-IllusieのLog幾何学を応用することにより,局所系の高次順像の退化を層の理論として扱い,Log Riemann Hilbert対応との関係を研究した.また多変数版のLog Hodge構造の研究,つまりベースが高次元の場合のHodge構造の変形の退化を,Log幾何学を応用し層の理論として研究した.

 1.LOG RIEMANN HILBERT対応と高次順像について

 Xを複素多様体とする.を階数有限の局所自由X加群の層で,可積分接続∇:,が付随するとする.このときL:=ker∇はX上の局所系になる.一方,LをX上の局所系とするとき,XCLは階数有限の局所自由X加群の層でd1は可積分接続となる.この事実は,Riemann Hilbert対応として知られている.今Xをfs log解析的空間とする.つまり,fs log構造つきの解析的空間とする.このとき加藤一也先生,中山能力先生は[KN]において次の結果を得た.fs log解析的空間に付随する環付き空間(Xlog,)が構成され,Xに関する適当な条件のもとで,2つの圏Lunip(Xlog)とDnilp(X)は圏同値になる.これをLog Riemann Hilbert対応という.ただし,

 Lunip(Xlog):Xlog上のCベクトル空間の局所定数層Lで次の条件を満たすものからなる圏とする.

 Xlog上のCベクトル空間の局所定数層からなる,次の条件を満たす有限フィルター

 

 が存在するものとする.

 X上局所的に,各Li/Li-1はXのCベクトル空間の局所定数層の逆像になっている.

 Dnilp(X):X上の階数有限の局所自由X加群の層で次の条件を満たすものからなる圏とする.

 可積分接続∇:が付随し,X上局所的に,部分X加群の層からなる,次の条件を満たす有限フィルター

 

 が存在するものとする.

 ∇iiかつi/i-1は局所自由でi/i-1上に導かれる∇は極を持たない.

 次に相対的な場合を考える.Xを複素多様体,を単位円盤,f:X→を固有平坦全射正則写像とする.fはsemistable typeとする.つまり

 1.1.fは*:=\{0}上スムースで,D:=f-1(0)は被約正規交叉因子とする.

 このとき,X,はfs log解析的空間になり,f:X→に対して環付き空間(Xlog,),(log,)と,射flog,が存在して次の図式は可換になる.

 

 X*:=X\Dとする.を可積分接続∇付きの階数有限の局所自由加群の層,LをX*上の局所系でRiemann Hilbert対応により(,∇)に対応するものとする.Deligneの結果[Del]により,次のことが知られている.Rif*Lは*上の局所系,Rmf*()は*上の階数有限の局所自由加群の層で,同型写像CRmf*L→Rmf*()がある.ただし,で,微分はd1+1∇とする.今,とする.本論文では次のことを証明した.

 Theorem 1.2.LをLnilp(Xlog)の対象,をDnilp(X)の対象でLog Riemann Hilbert対応によりLに対応するものとする.とする.このとき,次の同型写像がある.

 

 臼井三平先生の結果[Us1]により,log上の局所系になる.よって

 Theorem 1.4.はX上の階数有限の局所自由OX加群になる.

 最後にLog Riemann Hilbert対応との関係として次を得る.

 Theorem 1.5.次の図式は可換.

 

 2.多変数における,高次順像のLOG HODGE構造について

 f:X→を前の節と同様semistabel typeとする.H:=,HQ:=,Fp:=,∇をGauss Manin接続とする.[Us1],[FKa],[Mat]により(もしくは1章においてL=Cとした場合を考えると)同型写像があり,さらにfが射影的のとき[Mat]により,(HQ,H,Fp,∇)はLog Hodge構造になる.

 本論文ではこのことを高次元の場合に一般化する.S=k,(t1,...,tK)をSの原点を中心とした座標,f:X→Sを固有平坦全射正則写像とする.さらにfはmulti-semistable typeとする.つまり,次を満たすとする.

 2.1.1ilkに対し,Ei:={ti=0}⊂SE:=EiはS上被約正規交叉因子,Di:=f-1(Ei),D:=Di,S*:=S\E,X*:=X\Dとする.このときfはS*上スムースでDi,DはX上の被約正規交叉因子になる.

 この場合,Xの局所座標(x1,...xr)があってfは局所的に次のように書ける.

 

 前の場合と同様に,環付き空間(Xlog,),(Slog,)及び次の図式がある.

 

 をGauss Manin接続とする.臼井先生[Us2],加藤文元先生[FKa]は独立に次の結果を得た.

 Proposition 2.2.[Us2][FKa]次の同型写像が存在する.

 

 このことを使い,本論文では次の定理を証明した.

 Theorem 2.3.(HQ,H,Fp,∇)はLog Hodge構造である.

 この定理の証明には藤沢太郎先生の[Fuj]における次の結果を用いる.

 Proposition 2.4.[Fuj]Z:=f-1(0).とする.このときspectral sequence

 

 はE1退化しは局所自由になる.

REFERENCES[Del] Deligne,P.,Equations Differentiells a Points Singuliers Reguliers,Lecture notes in Math.163,Springer,(1970)[Fuj] Fujisawa,T.,Limits of Hodge structures in several variables,Compositio Math.,115,(1999),129-183.[FKa] Kato,F.,The relative logarithmic Poincare lemma and relative log de Rham theory,Duke Math.J.,93(1998),179-206.[Kat] Kato,K.,Logarithmic structures of Fontaine-Illusie,Algebraic analysis,geometry,and number theory(Igusa,J.-I.ed.),Johns Hopkins Univ.Press,(1989),191-224.[KN] Kato,K.and Nakayama,C.,Log Betti cohomology,log etale cohomology,and log de Rham cohomology of log schemes over C,Kodai Math.J.22,(1999),161-186.[Mat] Matsubara,T.,On log Hodge structrues of higer direct images,Kodai Math.J.21,(1998),81-101.[Sch] Schmid,W.,Variation of Hodge Structure:The singularities of the Period Mapping,Inv.math.22,(1973),211-319.[Us1] Usui,S.,Recovery of vanishing cycles by log geometry,preprint.[Us2] Usui,S.,Recovery of Vanishing Cycles by Log Geometry:Case of Several Variables,Symposium on algebraic geometry,Kinosaki,(1996).
審査要旨

 松原利治氏はこの論文において、代数多様体の退化から生ずるHodge構造の退化や局所系の退化を、Fontaine-Illusie流の対数的代数幾何の方法を用いて研究した。

 f:X->Yを、多重半安定退化を持つ、Yを底空間とする代数多様体の族とする。松原氏はこの論文で次の結果を得た。

 (1)gをXに伴う対数空間X(log)からYに伴う対数空間Y(log)への、fによって導かれる写像とする。この時、X(log)上の整数群の定数層のgによる高次順像は、Y上の対数的Hodge構造となる。

 (2)dim(Y)=1とする。この時X(log)上の局所系Fと接続付きの加群層Mが、対数的Riemann-Hilbert対応によって対応する時、Fのgによる高次順像とMのfによるde Rham高次順像とは、対数的Riemann-Hilbert対応によって対応する。

 これらの結果の意義は、次のようなものである。

 特異点のない代数多様体からHodge構造が得られることは、代数幾何学の基本定理のひとつである。(1)は、この基本定理の退化のある場合への拡張であって、対数的な退化を持つ代数多様体の族から、対数的Hodge構造が得られることを示したものである。

 (2)は、これを、係数層付きの理論に拡張しようとする途上で得られた結果であり、最も望ましいのは、(2)でdim(Y)=1の仮定をはずすこと、そして(2)においてFに対数的Hodge構造が入るとき、Fのgによる高次順像がY上の対数的Hodge構造になることを示すことであるが、そこまでの結果はまだ得られていない。(それができれば、(1)は(2)においてFとして整数群の定数層をとった場合になる。)しかし、(2)はそれに近づく結果であり、すでに(2)の結果から、Mのfによるde Rham高次順像が局所自由な加群層になるという新しい事実が、系として得られた。

 Fontaine-Illusie流の対数的代数幾何学を用いる、Hodge構造や局所系の退化の研究には、川又雄二郎氏、並河良典氏、臼井三平氏、加藤文元氏の仕事があるが、松原氏の仕事はそのどれにも含まれるものではない。また、代数多様体の退化に伴うHodge構造の退化の研究に、Steenbrinkによるlimit Hodge構造の方法(Steenbrinkは半安定な退化を研究し、後に藤沢太郎氏が多重半安定な退化へと拡張した)があり、藤沢氏の仕事は松原氏の仕事の中に生かされているが、対数的Hodge構造を用いる松原氏の方法のほうが、より精密な情報を与えることができている。

 これまで代数多様体をHodge構造を用いて研究することが有効であったように、今後、代数多様体の退化を、対数的Hodge構造を用いて研究することが、発展してゆくと期待される。たとえば、これまで代数多様体にそのHodge構造を対応させる対応は周期写像と呼ばれ、代数多様体の分類などに役立ってきた。今後、代数多様体の退化に、それに伴う対数的Hodge構造を対応させることで、周期写像の無限遠における振る舞いを解明することができるようになると思われる(既に斎藤秀司氏らが研究を始めている)。松原氏のこの仕事は、そのような進展のために大きな役割を果たしていくものと思われる、優れた仕事である。

 よって論文提出者松原利治は博士(数理科学)の学位を受けるのにふさわしい充分な資格があると認める。

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