学位論文要旨



No 115258
著者(漢字) 山田,拓
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,タク
標題(和) スフィンゴ糖脂質の新規合成法開発に関する研究
標題(洋)
報告番号 115258
報告番号 甲15258
学位授与日 2000.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第2103号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 応用生命化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 北原,武
 東京大学 教授 山口,五十麿
 東京大学 教授 長澤,寛道
 東京大学 助教授 作田,庄平
 東京大学 助教授 渡邉,秀典
内容要旨

 アミノジオールは、スフィンゴシン類をはじめとして生理活性物質内に広く存在する基本骨格の1つである。また、近年の天然物合成においても重要なキラルプールとなる。筆者は、その合成方法を構築し、天然物合成に応用することを目的として研究を行った。基本概念は図に示すようであり、Sharplessの不斉エポキシ化により酸素不斉を導入し、位置立体選択的なエポキシドの開環反応によりアミノ基を導入することとした。反応条件としては窒素源としてイミンを用い、Griecoらによる分子内Diels-Alder反応において用いられた条件を適用した。

 

1スエヒロタケの子実体形成因子であるセレブロシド(4)の合成

 セレブロシド4は、川合らによってスエヒロタケ子実体形成誘導物質として単離、構造決定された化合物である。新規に開発したイミンによるエポキシドの開環反応を鍵反応として用いる合成に供することにした。

 

 プロパルギルアルコール5を出発原料として、4炭素増炭した後に、アセチレンジッパー反応により末端アセチレン6へと異性化後、さらに9炭素増炭しインアルコール7を得た。7のLindlar還元、Swern酸化、Wittig反応、DIBAL還元、Sharp1essの不斉エポキシ化によりエポキシド8を得た。

 

 p-メトキシベンジルアミンとシクロヘキサノンとから調製されるイミン2と8との反応によりエポキシド開環体を得た。生成物はシリカゲルTLCにて2つのスポットを与えたが、2次元TLC展開により平衡混合物であることが示唆された。そこで、シクロヘキシリデンを酸処理して除去したアミノジオールとしたところ、生成物は12と13の3:1の位置異性体混合物であることがわかった。以上の結果より、エポキシド開環反応生成物のうち低極性のものが9、高極性のものが10と11の混合物であることがわかった。

 

 12と13を混合物のままクロロアセチル化、CANによる脱PMB化を行った後、分離精製し、加メタノール分解してアミド14を得た。

 -ヒドロキシカルボン酸部分については、文献既知の方法を改良して合成した。アセトアミドマロン酸ジエチル15を出発原料としてマロン酸エステル合成、アミノ基のヒドロキシル化を含む4段階にてヒドロキシカルボン酸16とした後に、酵素分割により光学活性カルボン酸を得た。続いてアセチル化、p-ニトロフェニルエステル化して17へと導いた。

 カルボン酸部分とスフィンゴ脂質部分とのカップリングは、14を酸加水分解した後、精製することなく17と反応させてセラミド18を得た。

 

 18に対してグリコシル化反応を行ったが、望むグリコシドは得られなかった。そこで、TBDPS保護、アセチル化、脱TBDPS保護して、文献既知のアルコール19へと導いた。

 Hg(CN)2を活性化剤としブロモグリコシドを用いてグリコシル化し、アセチル基を加メタノール分解することで目的のセレブロシド4へと導いた。

 

2セラミド21の合成研究

 21は橘らによって渦鞭毛藻Coolia monotisより単離、精製された新規セラミドであり、顕著な生物活性はもっていないが、細胞膜脂質として15位にメチル側鎖を持つことよりその動態に興味が持たれる。そこで、メチル側鎖の立体配置を決定することを目的として合成を行うことにした。

 

 2-ブチン-1,4-ジオール22を出発原料として、文献既知なエポキシアルコール23を得た。このもののイミン2による開環反応では、選択性、反応性ともに格段に上昇した。シクロヘキシリデン基を脱保護したところで分離精製可能であり、97:3の比で望む5-exo体を得た。アセチル化後、脱PMB化、加メタノール分解、脱アミド化、Boc保護をかけカーバマート26へと導いた。

 

 ジエン部分はオクタナール28から、Wittig反応、DIBAL還元、Dess-Martin酸化によって導かれる,-不飽和アルデヒド29と、ブタン-1,4-ジオール30からモノTBS化、トシル化、ヨウ素化、スルホン化によって導かれるスルホン31とのJulia反応により調製した。トランスーシス選択性は4:1であったが、TBS基の脱保護後、硝酸銀シリカゲルカラムによって分離した。現在、ジエンアルコール32から導かれるスルホン33と26から導かれるアルデヒド27とのJulia反応を検討中である。

 

 カルボン酸部分については、シトネロール34からオゾン酸化、Wolff-Kishner還元、ハロゲン置換によって得られるハロゲン化アルキル35と第1章で用いた中間体6とのアセチレンカップリング、さらに、アスコルビン酸36から導かれる37とのカップリング反応により導けると考えており現在検討中である。

 

 以上のように、私はエポキシドのイミンを用いた新規分子間開環反応により2つの不斉を持つアミノアルコールの合成方法を確立した。さらに、スエヒロタケの子実体形成因子であるセレブロシド(4)を合成した。またもう1つのセラミド(21)の合成については現在進行中である。

審査要旨

 本研究は、新規のエポキシド開環反応を用いたスフィンゴ糖脂質の合成に関するものであり、2章からなる。エポキシド開環反応の基本概念は図に示すようである。申請者は、Sharplessの不斉エポキシ化により酸素不斉を導入し、位置立体選択的なエポキシドの開環反応によりアミノ基を導入する新しい手法によりスフィンゴ糖脂質の合成することを目的として以下の研究を行った。反応条件としては窒素源としてイミンを用い、GriecoらによるDiels-Alder反応において用いられた条件を適用した。

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 第1章は、スエヒロタケの子実体形成因子であるセレブロシド(4)の合成について述べている。セレブロシド4は、スエヒロタケ子実体形成誘導物質として単離、構造決定された化合物である。

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 5を出発原料として、4炭素増炭した後に、末端アセチレン6へと異性化後、さらに9炭素増炭し7を得た。7のLindlar還元、Swern酸化、Wittig反応、DIBAL還元、Sharplessの不斉エポキシ化によりエポキシド8を得た。

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 p-メトキシベンジルアミンとシクロヘキサノンとから調製されるイミン2と8との反応によりエポキシド開環体を得た。生成物はシリカゲルTLCにて2つのスポットを与えたが、2次元TLC展開により平衡混合物であることが示唆された。そこで、シクロヘキシリデン基を酸処理し、アミノジオールとしたところ、生成物は12と13の3:1の位置異性体混合物であることがわかった。

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 12と13を混合物のままクロロアセチル化、CANによる脱PMB化を行った後、分離精製し、加メタノール分解してアミド14を得、酸加水分解後、バルミチン酸エステルと反応させてセラミド18を得た。

 TBDPS保護、アセチル化、脱TBDPS保護して、文献既知のアルコール19へと導いた。Hg(CN)2を活性化剤としブロモグリコシドを用いてグリコシル化し、アセチル基を加メタノール分解することで目的のセレブロシド4へと導いた。

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 第2章は新規構造を有するセラミド21の合成研究について述べている。21は渦鞭毛藻Coolia monotisより単離された新規セラミドであり、顕著な生物活性は示さないが、細胞膜脂質として15位にメチル側鎖を持つことよりその動態に興味が持たれる。

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 2-ブチン-1,4-ジオール22を出発原料として、文献既知なエポキシアルコール23を得た。このもののイミン2による開環反応では、選択性、反応性ともに格段に上昇した。シクロヘキシリデン基を脱保護したところで分離精製可能であり、97:3の比で望む5-exo体を得た。アセチル化後、脱PMB化、加メタノール分解、脱アミド化、Boc保護をかけカーバマート26へと導いた。

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 ジエン部分はオクタナール28から、Wittig反応、DIBAL還元、Dess-Martin酸化によって導かれる,-不飽和アルデヒド29と、ブタン-1,4-ジオール30からモノTBS化、トシル化、ヨウ素化、スルホン化によって導かれるスルホン31とのJulia反応により調製した。トランスーシス選択性は4:1であったが、TBS基の脱保護後、硝酸銀シリカゲルカラムによって分離した。ジエンアルコール32から導かれるスルホン33と26から導かれるアルデヒド27とのJulia反応による骨格合成を検討している。

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 カルボン酸部分については、シトネロール34からオゾン酸化、Wolff-Kishner還元、ハロゲン置換によって得られるハロゲン化アルキル35と第1章で用いた中間体6とのアセチレンカップリング、さらに、アスコルビン酸36から導かれる37とのカップリング反応により導く方法を検討している。

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 以上のように、申請者はエポキシドのイミンを用いた新規分子間開環反応により2つの不斉を持つアミノアルコールの合成方法を確立し、これを用いてセレブロシドの合成に成功したものであって、天然物有機化学分野において学術上貢献するところが少なくない。よって審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと判定した。

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