内容要旨 | | 一般超幾何積分とは、typeの超幾何関数とも呼ばれ、それは古典的な1変数合流型超幾何関数を表わす1変数積分の一般化である。ここで、は正整数l3の分割を表わす。=(1,1,…,1)の場合は、その高次元積分は、いわゆる、Aomoto-Gel’fandの超幾何関数である。Aomoto-Gel’fandの超幾何関数は、代数的なトポロジーの視点から研究され、いろいろな代数的構造と性質を持つことはよく知られている。一般超幾何積分に対して、低次元の場合や特別な分割について、ホモロジー(cycle)の構成などが知られている。最近、木村弘信氏の研究により、一般超幾何積分に関係するツイストホモロジー群が次のように定義されている。それは複素射影空間における、ある有理関数によって定められたsupportsのfamilyを付随された超平面の補空間上、1次元の-ベクトル空間の局所系に係数を持つホモロジー群である。このホモロジー群は指数関数の増大度の情報をうまく用いると、局所系を係数とする相対ホモロジー群と同型になる。この結果により、一般超幾何積分に関する代数的な構造の研究は、ツイスト相対ホモロジーを用いた、一つの新たな方向に展示している。それで、空間対のツイスト相対ホモロジーの構造を調べるのは重要である。 この論文では、多重積分の場合に上記のホモロジー群の次元を計算するため、ある超幾何積分の外積構造を調べること、n点の配置空間のツイスト単体的相対ホモロジーと、ツイスト特異相対ホモロジーを組織的に研究することを目的とする。 正整数r(rl-2)に対し、r次元複素射影空間上のm個同次多項式の零点の集合をDとし、X:=Pr\Dとおく。またをX上の1次元ベクトル空間の局所系、をPr上のある有理関数fにより定義されたfamily of supportsとする。Arはホモロジー群がstable、i.e. になるようなfにより定められたXの部分空間である。すなわち、十分小さいに対し、。特に、r=1のとき、の次元はl-2となる。十分小さい1に対し、(uはP1のアファイン座標)とおくと、。空間対のn-copiesのcross積を考えると、空間対のホモロジー、そして、上の同型よりのある代数的な構造を調べる。ここで、 、はf(u1)+f(u2)+…+f(un)より定めたfamily of supportsである。さらに、とおくと、(Xn,An)は次のような外積構造を持つことが分かる。 定理1.、を各空間Xn、上の1次元のベクトル空間の局所系とし、,ここで、は標準的射影であるとする。このとき、次の同型が存在する。 この定理により、次のことが分かる。一般超幾何積分の変数z∈Zn+1(Zn+1は(n+1)×l複数行列全体M(n+1,l)のZarsiki open set)があるvariety Vに含まれていれば、あるX1⊂P1が存在してXはn個のX1の対称積となる。さらに、X1上の局所系が存在して、。特に、z∈Vに対しては。この結果はAomoto-Gel’fandの超幾何関数の場合に既に知られていて、T.Terasomaのwronskian determinant formulaをホモロジー論的に理解したK.Iwasaki,M.Kitaの論文に与えられている。 この研究につづいて、空間対のツイスト相対ホモロジー理論をあげる。ここでは、局所系をベクトル空間の局所系とし、単体的複体理論と特異複体理論との比較定理が与え、多面体対の特異ホモロジーは単体的対のホモロジーの計算に決着されることを示す。(K,K0)を単体的対、をK上の局所系とする。Kのn点の配置空間をと定義する。ここでSdはsubdivision functorである。このとき、はSd2Kn上の局所系になる。K[i]=K×…×K0×…×K(i=1,2,…,n)(第i因子はK0で、その他はK)、、、をKn上の局所系とすると、次の定理が得られる。 定理2.標準的射影:Sd2Kn→Knに対して、と仮定する。このときであれば (1) (2)とは標準的ベクトル空間の同型で、具体的には ここで、はnthの外積、はnthの対称積を表わす。 次に、n個の位相空間対(X,A)のcross積を考える。をX上n点の(位相)配置空間と呼ぶ。はX上の局所系とする。このとき、Xn上局所系はと書ける。上と類似の記号を使うと、で、そして次の定理が成り立つ。 定理3.空間対(X,A)を単体構造((K,K0),f)上の多面体とする。をX上の特異局所系,をXn上の特異局所系とし、 (1),ここで、は標準的射影であるとする。このとき、次のベクトル空間の同型が存在する: ここで、はK上の単体的局所系である。 (2)とする。このとき かつ ここで、nはnth外積で、はnth対称積である。 一方、空間対は多面体対の構造を持つことが分かる。次の定理は、ここでまとめたツイスト相対ホモロジー理論は一般超幾何積分の外積構造の研究に応用できることを指摘している。 定理4.次の同型が存在する: ここで、Kはあるbouquetである。 |
審査要旨 | | Gaussの超幾何関数や,その合流型として得られる,Kummer,Bessel,Hermite,Airyなどの名前で呼ばれる諸関数を,積分表示に注目する立場から,多変数の場合をも含めて一般化したものが,一般超幾何関数である。これは,自然数lの分割により,ラベルが付けられている。l=4の場合が,上述の1変数の場合であり,これら古典関数のラベルは であることは良く知られている。 これらの関数は,すべて1重積分であり,その積分路は,P1から,の長さl()と等しい個数の点を除いた空間X1の,ある局所有限なホモロジー群の元である,と解釈することができる。このホモロジー群は,被積分関数の多価性の情報を表すlocal systemを係数とし,被積分関数の指数関数的な増大度に関する情報を表すfamily of supports1が指定されている。 一般化超幾何関数は,タイプの超幾何関数とも呼ばれている。自然数に対して,タイプ=(1,1,…1)の超幾何関数とは,いわゆる青本・ゲルファントの超幾何関数であり,代数的トポロジーの視点から深く研究され,興味深い代数的な構造を持つことが知られている。 射影空間Prの座標をt=(t0,t1,…,tr)と書くとき,一般化超幾何関数は次のような積分で定められるものである。 ここでfは有理関数,Pは1次関数のべき積として表される多価解析関数,dtは次の形で表される微分形式である。 すぐ上で述べた,一般超幾何関数の積分表示に関する幾何学的な見方は,このようなr重積分の場合にも有効であることが,最近の木村弘信氏らの研究により明らかになっている。実際,この場合にも一般超幾何関数と関連して,上記のようなlocal systemに係数を持つツイストホモロジー群がX=Pr\A上定義されている。ここで,Aは,l()個の超平面の和集合であり,ある有理関数の定めるfamily of supportsが付随している。さらに,このホモロジー群は,指数関数的増大度に関する情報を巧みに使うことにより,X上のlocal systemを係数とする相対ホモロジーと同型になることが示される。ここで当然考えられるのは次の問題である。 問題r重積分の場合について,ホモロジー群の構造を調べ,次元を決定せよ。 提出論文では,このようなホモロジー群の積構造を,r=1すなわち1重積分のn個の外積として得られるn重積分の場合について調べている。すなわち,多重積分の場合にホモロジー群の次元を計算するため,ある一般化超幾何関数の外積構造を調べること,点の配置空間のツイスト単体的複体相対ホモロジーとツイスト特異相対ホモロジーを研究すること,が提出論文の目標である。 一般化超幾何関数の変数をz∈Zn+1とする。ここで,Zn+1は,M(n+1,l)のザリスキー開集合である。Xを上記のPrの部分集合,をX上のlocal systemとするとき,提出論文において,次の結果が得られている。 定理1一般超幾何関数の変数zが,あるvariety Vに含まれていれば,あるX1⊂P1が存在して,Xは,n個のX1の対称積SnX1となる。 さらに,X1上のlocal systemおよびfamily of support1が存在して が成り立つ。とくに,z∈Vに対しては となる。ここでlは,上のホモロジー群の同型において左辺の1を定める有理関数の極の位数の総和にさらに極の個数を加えたものに等しい。 なお,n=1のとき,ホモロジー群の次元は直接計算できて,l-2となり,この結果と合っている。上記の結果は,青本・ゲルファントの超幾何関数,すなわち=(1,1,…,1)の場合には既に知られており,寺杣氏のWronskian determinant formulaをホモロジー論の立場から理解した,岩崎・喜多氏の論文において与えられている。この場合に,ホモロジー群の外積構造を用いて興味ある結果が得られていることを鑑みれば,提出論文の結果を用いることによって,多重積分で定義された一般超幾何関数の性質が具体的に明らかになることが期待される。 さらに提出論文では,空間対の相対ホモロジー,単体的複体相対ホモロジー等についても結果を得ている。 本論文で取り扱われている問題は,具体的な問題を扱うためには必ず通らなければならないと思われるものであり,得られた結果はその一般論を与えている。また,近い将来,具体的な問題に応用されることが期待され,興味深いものである。よって,論文提出者陸永岩は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 |