No | 113355 | |
著者(漢字) | 鈴木,高宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | スズキ,タカヒロ | |
標題(和) | 動力学拘束を受ける非ホロノミック系の解析と制御 | |
標題(洋) | Analysis and Control of Nonholonomic Systems under Dynamical Constraints | |
報告番号 | 113355 | |
報告番号 | 甲13355 | |
学位授与日 | 1998.03.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4073号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械情報工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 機械システムにおける動力学拘束が不可積分性すなわち非ホロノミック性をもつとき,フィードバック線形化のような線形化手法が適用できない強い非線形性を示す.このような非線形性は従来のシステムにはないアンダーアクチュエーテッド性やカオスのような複雑性・多様性などの特徴をもつ.このような系の力学構造を明らかにするために,系の非線形挙動の解析を行ない,その非線形性の特徴を利用した制御法の構築を行なう.さらにそれを通して従来にはない機能を持った新たな非線形機構の創造を目指す.動力学拘束による非ホロノミック機構は,2階微分方程式で表される拘束条件式が第1積分だけを持つ1階非ホロノミック系と,1度も積分できない2階非ホロノミック系の2つに分けられる.ここでは前者である宇宙ロボットの運動計画法と,後者である自由関節マニピュレータの非線形挙動の解析と制御について議論する. マニピュレータアームを持つ自由飛行型宇宙ロボットは,運動量・角運動量保存則による拘束のためそのアームの運動と本体姿勢の運動は連動し,独立に制御することはできない.しかし角運動量保存則による拘束が1階非ホロノミックであることから,アームの周回運動により手先が同じ位置姿勢に戻っても本体の姿勢は変化させることができる.これに基づき,手先の周回運動による本体姿勢の変化を定式化し,手先の目標軌道とその周回運動との合成によるスパイラル状軌道により手先の目標と本体姿勢の目標とを同時に満たす運動が可能となる.さらに目標軌道を短く分割することでスパイラルの半径を小さくし,要求に応じて目標軌道を十分に近似することができる.すなわち実現不可能な目標軌道を,その周囲を周回する摂動を加えたスパイラル状の実現可能な軌道で近似的に実現することができる.図はx方向に0.5[m]手先を移動する目標軌道を0.2[m]の誤差範囲内で近似するスパイラルモーションによる運動シミュレーションの結果を表している.本方法は非ホロノミック系の運動計画を,拘束を考慮せずに行なう目標軌道の計画とその目標軌道を近似するスパイラルモーションの生成とに分けることができる.すなわち目標軌道の計画には既存のホロノミックな系に対する様々な軌道計画法を適用することができる. ![]() ![]() 自由関節マニピュレータとはアクチュエータを持たず重力や摩擦がなく自由に動く関節をもつマニピュレータアームであり,その自由関節における動力学的拘束が2階非ホロノミックであることが知られている.2階非ホロノミック系に対しては可制御性を示すことさえ困難であることから分かるように,未だ一般的な制御理論が確立されていない.ここでは第一関節のみが駆動される自由関節マニピュレータについて,非線形力学的見地から解析を行ない制御法の構築を行なう.全関節の位置制御の戦略として,1)自由関節を無視し駆動関節だけを目標へ位置制御した後,2)駆動関節の目標点まわりでの周期運動によって自由関節の制御を行なう,といった方法をとる.1)は容易なので,2)が中心的問題となる. はじめに水平2関節自由関節マニピュレータに のような周期摂動を与えた場合の挙動を第2関節の位相平面におけるポアンカレ写像によって解析した.その結果,比較的小さな振幅に対しては図2のように写像の点列が楕円状の多様体を形成するが,十分大きな振幅の周期入力を与えた場合は図3のようにカオス的挙動が見られることが分かる.また振幅を上下することでこの楕円状多様体は速度方向に伸縮される.この性質を利用し,1周期毎に振幅を変調することにより目標点を通る楕円多様体へ安定化する制御法を提案した.また多様体上に安定化された後,目標点の近傍に達した時に1周期後の速度をちょうど0にする振幅を求める停止制御法も提案した.多様体への安定化と停止制御の二つの組合せによって全関節の位置制御が実現される.図4は第二関節を初期点 上の制御法は計算機シミュレーションから得られた解析結果を基に構築されたヒューリスティックな方法であり,一般化が困難である.そこで,平均化法なる摂動運動の近似解析法を用いて系の挙動を解析し,それに基づいて制御法の構築を行なった.その結果,多関節を一つのモータのみで駆動する一般の一駆動n自由関節マニピュレータの解析が可能となった.図5に示すような一駆動二自由関節マニピュレータを製作し,提案された制御法の有効性を検証するとともにその制御可能性を示した.実際の系では関節の摩擦は無視できず ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() | |
審査要旨 | 本論文は「Analysis and Control of Nonholonomic Systems Under Dynamical Constraints」(動力学拘束を受ける非ホロノミック系の解析と制御)と題し、7章からなっている。 機械系の動力学が運動に拘束として作用し、その拘束が非可積分すなわち非ホロノミックなとき、フィードバック線形化のような非線形制御理論が適用できない強い非線形性を示す。このような系の力学的性質を明らかにし、非線形性の特徴を利用した制御法の構築を行なうことが本論文の目的である。動力学拘束に原因する非ホロノミック性は、2階微分方程式で表される拘束条件式が第1積分だけを持つ1階非ホロノミック系と、全く積分量を持たない2階非ホロノミック系に分けられる。本論文は、前者の例である宇宙ロボットの運動計画問題と、後者の例である自由関節マニピュレータの非線形挙動の解析と制御について論じている。 本論文の第1章は「Introduction」で、機械の非線形性がもたらす運動の豊かさが本研究を行うモチベーションであり、非線形性を解析して、それを利用する機械を創造し制御する技術を確立することが本論文の目的であると述べ、本論文の内容について概説している。 第2章は「Nonholonomic Systems」と題し、機械の運動と拘束の非ホロノミック性について述べた後、関連する研究についてサーベイを行い、非ホロノミック系が非線形制御理論の中で特徴的な性質を示す可制御性とフィードバック安定化可能性の問題を解説している。 第3章は「Spiral Motions of Free-Flying Space Robots」と題し、自由飛行型宇宙ロボットの運動計画問題を論じている。運動量・角運動量保存則は動力学的拘束の第1積分であり、宇宙ロボットではこれを満たすように運動計画を行うことが必要である。本章では、任意な軌道をその回りで旋回するスパイラル状の軌道で近似することによって拘束を満たす運動に変換する問題を、変分法的最適化で解く方法を確立した。 第4章は「Nonlinear Behavioral Analysis and Control of 2R Free-Joint Manipulators」と題し、第1関節が駆動され、第2関節として重力と摩擦の影響を受けず自由に動く非駆動関節をもつ、平面自由関節マニピュレータの非線形挙動解析とそれに基づく制御を論じている。第1関節を周期的に運動させる場合の第2関節の挙動を位相平面におけるポアンカレ写像によって数値解析し、小さな振幅に対しては写像の点列が楕円状の多様体を形成するが、十分大きな振幅に対してはカオス的挙動が現れることを明らかにした。次に、目標とする楕円状多様体からの距離を用いた振幅変調フィードバックによって、多様体へ安定化する制御法を提案し、これと停止制御と組み合わせることで、両関節を任意に位置決めできることを計算と実験により実証した。 第5章「Analysis and Control of Free-Joint Manipulators via the Averaging Method」では、摂動運動の近似解析法である平均化法を用いることで、一般の1駆動N自由関節マニピュレータの解析法を構築した。第4章でポアンカレ写像の楕円状軌道として現れたものが、平均化解析では楕円関数で記述される不変多様体となることを明らかにし、対応する保存量であるハミルトニアンの存在を確認した。平均化解析の結果とリアプノフ安定化理論に基づいた制御法を確立し、計算と実験によりその有効性を検証した。 第6章は「Analysis and Control of 3R Free-Joint Manipulators with One Motor」と題し、1駆動2自由関節マニピュレータを論じた。このマニピュレータが駆動関節の周期運動に対して2次元の不変多様体、すなわち2つの保存量をもつことを数値計算によって明らかにした。1つの保存量は第5章と同様のハミルトニアンであるが、2つ目の保存量を解析的に見つけることは今後の課題と述べている。振幅変調フィードバックを拡張することによって1駆動2自由関節マニピュレータを二次元の不変多様体に安定化する制御法を構築し、計算と実験によって有効性を実証した。 第7章は「Conclusion」であり、以上の結果を要約したものである。 以上を要するに、本論文は、非可積分な動力学拘束を受けるロボットなどの機械系の運動に関して、変分法的最適化による運動計画法、非線形力学解析に基づく制御法を構築したものであり、機械工学ならびにロボティクスに寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54006 |