内容要旨 | | 本文では、複素領域で定義された線形微分方程式 で、次の仮定: 仮定: x=1,…,gは対数特異点ではない。 を持つ線形方程式のホロノミック変形を考えた。ここで、 である。方程式(1)はAg型線形微分方程式と呼ばれる。 この線形方程式(1)のリーマン図式は次で与えられる。 まず、ホロノミック変形の定義を行う。 定義: 微分方程式(1)がホロノミックな変形を許すとは、xの有理関数Aj(x),Bj(x)で、次の連立微分方程式系が完全積分可能となるようなものが存在することである。 定理1:Aj(x,t)は次で与えられる。 ただし、、はxに関してj-1次の多項式で、具体的に書ける。またAj(x,t)が有理関数として決まると、Bj(x)もそこから有理関数として定まる。 定理2:p2(x,t)の係数Hjはt=(t1,…,tg),=(1,…,g),=(1,…,g)の有理関数として具体的に書ける。 定理2のHjを使って、を次の様に定義する。 ここで またai+1(t)は さらにはの整数部分、はをxで展開した時の係数である: 定理3: 方程式(1)がホロノミックな変形を許す必要充分条件は,がtの関数として、次のHamilton系を満たすことである。 ただし、は(7)で与えられるものである。 次のようなHamiltonianの変換を考える ただしfi(t)はt=(t1,…,tg)の任意関数である。なお、変換(10)が正準変換であるためには が成立しなければならないが、そうでなくても、この様な変換は元のHamilton系と同値なHamilton系を定める。 このことに注意してHamiltonianを、次のように変換する。 これから、われわれは次のようなHamilton系(L)を考える。 (11)より、Hamilton関数LjをHjで表すと次のようになる。 次に、正準変換 を定義する: ただし、ejはl(l=1,…,g)の基本対称多項式で、特にe0=1である。はl(l=1,…,g;l≠j)の基本対称多項式で、特にである。 正準変換の定義より、Hamilton系(L)は次のHamilton系に写る。 ただし、Hamilton関数 Ljは=(1,…,g)と=(1,…,g)の多項式である。 定理4: Hamilton系(L)は Hamilton系(L)pと同値である。 さらにはをxで展開した時の係数で定義する: Hamilton系(L)pの特解を求めるために、(L)pに対して、次のような正準変換(L,t,,)→(R,s,q,p)を行う。 ここで、A=(Aij)B=(Bij)とC=(Cij)はg×g行列で、その成分は つぎの定理が成り立つ: 定理5: Hamilton系(L)pは 次のHamilton系と同値である。 ただし、Hamiltonian Rjはq=(q1,…,qg)とp=(p1,…,pg)の多項式である。 関数を用いて、多項式Hamilton系(R)の特解も求められる。 定理6:の時、多項式Hamilton系(R)は次のような特解を持つ。 但し、l(l=1,…,g+1)は下記の様な積分路である(各l(l=1,…,g+1)は角度がの角領域にある)。tは(15)によって、=(1,…,g)の関数で、 図表 |
審査要旨 | | 本提出論文では,複素領域で定義された線形微分方程式 で,次の仮定: 仮定:x=1,…,gは対数特異点ではない。 を満たす線形方程式のホロノミック変形を考察している。ここで, である。この多項式(2)は,Ag型単純特異点のバーサルな変形を表す多項式であり,以下の研究にたびたび現れる。方程式(1)はAg型線形微分方程式と呼ばれる。 この線形方程式(1)のリーマン図式は次で与えられる。 ホロノミック変形の定義は次の通りである。 定義: 微分方程式(1)がホロノミックな変形を許すとは,xの有理関数Aj(x,t),Bj(x,t)で,次の連立微分方程式系が完全積分可能となるようなものが存在することである。 A1型微分方程式のホロノミックな変形は古くから調べられており,これと関連してパンルベII型方程式のハミルトニアン構造が導かれることが知られている。また,A2型微分方程式のホロノミックな変形は,2つの時間変数を持つ完全積分可能なハミルトン系により定められるが,このハミルトン系についての研究も進んでいる。A3型微分方程式およびA4型微分方程式のホロノミックな変形は,論文提出者により既に計算され,発表されている。本提出論文では,以上の結果を一般のAg型微分方程式の場合に拡張することが目的である。 以下,主結果の解説を行う。まず,提出論文では,有理関数Aj(x,t),Bj(x,t)を具体的に定められている。また,p2(x,t)の係数Hjはt=(t1,…,tg),=(1,…,g),=(1,…,g)の有理関数として具体的を書く。これらの結果が研究の出発点となる。 次に,を,のxについての展開における,xqの係数として定義する: このとき,上のHjを使って,Ljを次の様に定義する。 ここでai+1(t)は次の式で定められる。 さらに,Tj=jtj(1jg)であり,はの整数部分である。 上で定義された関数,ai+1(t),およびLjは,論文提出者の独自の工夫により発見された。これらの量の導入により,次の定理が成立することがわかった。 定理1: 方程式(1)がホロノミックな変形を許す必要十分条件は,がtの関数として,次のハミルトン系を満たすことである。 ただし,Ljは(3)で与えられるものである。 ハミルトニアンLjは,との有理関数であり,このままではハミルトン系の取り扱いが面倒である。そこで,正準変換 を次のように定義する: ただし,ejはl(l=1,…,g)の基本対称多項式,e0=1である。また,であり,はl(l=1,…,g;l≠j)の基本対称多項式で,特にとする。 このとき,ハミルトニアンLjは=(1,…,g)と=(1,…,g)の多項式となり,さらに正準変換の定義より,ハミルトン系(L)から次のハミルトン系が従う。 すなわち次の定理が成り立つ。 定理2: ハミルトン系(L)は ハミルトン系(L)pと同値である。 論文提出者はさらに,ハミルトン系(L)pの特解を求めるために,(L)pに対して,次のような形の正準変換(L,t,,)→(R,s,q,p)を考察した。 ここで,A=(Aij)B=(Bij)とC=(Cij) はg×g行列であり,その成分は具体的に計算されている。このハミルトニアンRの具体形は,本提出論文において重要な役割を果たすが,同時に将来の研究にとっても大切な結果となることは確かである。実際,このようにして得たハミルトニアンは対称性に富んだものであり,これを利用すると,次の定理が成り立つ: 定理3:の時,多項式ハミルトン系(R)は次のような特殊解を持つ。 ここで であり,tは(15)によって,s=(s1,…,sg)の関数と見なされる。 また,積分路l(l=1,…,g+1)の形も具体的に与えられている。 本論文で取り扱われている問題は具体的であり,新しいものである。また,得られた結果も応用と一般化が期待され,興味深いものである。よって,論文提出者 劉 徳明 は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 |