内容要旨 | | 本文に於いて次の二つの事を述べる。 (i) バンルヴェIV型方程式を多変数に拡張し、それをハミルトン系の形で記述する。 (ii) 2変数のバンルヴェIV型方程式の隣接関係を調べる。 複素パラメータt=(t1,t2,…,tg)を持ったP1上の線形常微分方程式 に対して、方程式系 が完全積分可能となるようなxの有理関数Aj,(x,t),Bj(x,t)が存在する時、方程式(1)はホロノミック変形を許すと言う。 パンルヴェ方程式は、解の特異点で、位置が初期条件に依存するものは極のみと言う、いわゆるバンルヴェ性で特徴付けられる方程式であるが、他方、R.Fuchs,R.Garnierらの研究により、線形方程式のホロノミック変形からも特徴付けられる事が知られている。本文では、後者の立場に立って、バンルヴェIV型方程式を多変数に拡張し、それをハミルトン系の形で記述する。具体的には次の線形方程式のホロノミック変形を考える。 ただし、仮定として (A1) 複素パラメータ0,∞は非整数. (A2) x=1,…x=gは(2)の見掛けの特異点. とする。この仮定(A2)より、p2内のhj(j=1,…,g)がk,k,tk(k=1,…,g)の有理関数として一意に定まる。 定理A. 仮定(A1),(A2)のもとで、方程式(2)がホロノミック変形を許すための必要十分条件はj,jがt=(t1,…,tg)の函数として次のハミルトン系を満たす事である。 ここで、ハミルトニアンKj(j=1,…,g)は次で与えられるものである。 g=1のとき、ハミルトン系(3)はパンルヴェIV型方程式と同値なハミルトン系である。 定理Aのハミルトン系(3)は次の正準変換(,,K,t)→(,,K,t)で、ハミルトニアンが正準変数の多項式であるようなハミルトン系に写る。 k=1,2,…,gのk次基本対称式, ここで、 本文では次の予想も述べた。 Conjecture ハミルトン系(3)を次の正準変換 で(u,v,L’,z)に写すと が成立。さらにL’jからuk,k(k=1,…,g)に依存しない項を取り除いたハミルトニアンをLjと書けば も成立。ここで そして[fn]kはfnのXkの係数を表す。ただしnが負の場合は1/f-nを形式的に原点で展開したときのXkの係数とする。 この予想は計算機によりg9まで確認されている。 g=2の場合でハミルトニアンLjを具体的に書くと となる。 本文の後半ではg=2の場合に話を限り、ハミルトン系(u,,L,z)の隣接関係を調べた。結論は次の通りである。 定理 B.次の正準変換p(u,,L,z)→(,,L,z)は隣接関係を与える。 つまり、この変換により得られるハミルトニアンLjはLjに於いて、文字の置き換え を行ったものに等しい。 この変換より次の事も示せる。 定理C. ハミルトン系(u,,L,z)をでm回変換して得られるハミルトン系を(u〈+m・e2〉,〈+m・e2〉,L〈+m・2〉,z)と書く。この時z=(z1,z2)の函数(+m・e2)を で定義すると、これは次の一次元戸田方程式を満たす。 また、隣接関係と函数の定義より、 がわかる。つまり戸田方程式の解で多変数IV型方程式の解が記述される。 |
審査要旨 | | 本提出論文で対象となっているのは,次の二つの事である。 (i)パンルベIV型方程式を多変数に拡張し,それをハミルトン系の形で記述する。 (ii) 2変数のパンルベIV型方程式の双有理的正準変換を調べる。 複素パラメータt=(t1,t2,…,tg)を持ったP1上の線形常微分方程式 に対して,方程式系 が完全積分可能となるようなxの有理関数Aj(x,t),Bj(x,t)が存在する時,方程式(1)はホロノミック変形を許すと言う。 パンルベ方程式は,解の特異点で,位置が初期条件に依存するものは極のみと言う,いわゆるパンルベ性で特徴付けられる方程式であるが,他方,R.Fuchs,R.Garnierらの研究により,線形方程式のホロノミック変形からも特徴付けられる事が知られている。提出論文では,後者の立場に立って,パンルベIV型方程式を多変数に拡張し,それをハミルトン系の形で記述する問題が考察されている。このような問題意識は,非線形完全積分可能系により定義される特殊関数を決定しこれを詳しく調べる,という立場からは極めて自然であり,重要である。具体的には次の線形方程式のホロノミック変形が対象である。 ただし,仮定として (A1)複素パラメータ0,∞は非整数。 (A2)x=1,…,x=gは(2)の見掛けの特異点。 とする。この仮定(A2)より,p2内のhj(j=1,…,g)がk,k,tk(k=1,…,g)の有理関数として一意に定まる。論文提出者により得られた主要結果の第一は次の定理である。 定理A. 仮定(A1),(A2)のもとで,方程式(2)がホロノミック変形を許すための必要十分条件はj,jがt=(t1,…,tg)の函数として次のハミルトン系を満たす事である。 ここで,ハミルトニアンKj(j=1,…,g)は次で与えられるものである。 g=1のとき,ハミルトン系(3)はパンルベIV型方程式と同値なハミルトン系である。 定理Aのハミルトン系(3)は次の正準変換(,,K,t)→(,,K,t)で,ハミルトニアンが正準変数の多項式であるようなハミルトン系に写る。 k=1,2,…,gのk次基本対称式 ここで, 本提出論文では次の予想が述べられている。 Conjecture ハミルトン系(3)と同値なハミルトン系 で次の性質を持つものが存在する。 (a) ハミルトニアンLjは,正準変数ui,iおよびzkの多項式である。 (b) 各ハミルトニアンはポアソン可換である。 (c) 次の式が成り立つ。 この予想では,ハミルトニアンと正準変数の具体的な形も与えられている。また,論文提出者自身により,計算機による数式処理でg9まで確認されている。この予想を得るにあたって論文提出者が導入した正準変数は極めて興味深いものである。今後のこの分野の研究において不可欠な変数であることは疑いがない。 さらに,本提出論文の後半ではg=2の場合に話を限り,ハミルトン系(u、、L、z)についての詳しい研究がなされている。主要な結果は次の通りである。 定理B. ハミルトン系のパラメータ∞に注目するとき,∞におけるハミルトン系と,∞+1におけるハミルトン系とは,双有理的な正準変換により,お互いに正準同値である。 この双有理的正準変換は具体的に構成されている。多時間ハミルトン系に関する双有理的正準変換を具体的に求めることは,パンルベ方程式の場合の拡張として,大切な問題である。しかし,この問題を考察した研究は,論文提出者の他に一つあるのみである。2変数のパンルベIV型方程式ついて双有理的正準変換を決定した意義は大きい。さらに,応用として次の重要な結果が得られている。 定理C. ハミルトン系(u,,L,z)をでm回変換して得られるハミルトン系を(u〈+m・e2〉,〈+m・e2〉,L〈+m・e2〉,z)と書く。この時z=(z1,z2)の函数〈+m・e2〉を で定義すると,これは次の1次元戸田方程式を満たす。 また,隣接関係と函数の定義より, がわかる。つまり戸田方程式の解で多変数IV型方程式の解が記述される。 以上の結果は,2次元の場合については一つの区切りともいうべき優れたものである。 本論文で取り扱われている問題は具体的であり,新しいものである。また,得られた結果も応用と一般化が期待され,興味深いものである。よって,論文提出者 川向 洋之は,博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。 |