本論文は、ヒトレトロポゾンL1の転写制御メカニズムについて解析したもので2つの部分からなり、第1部は転写制御因子の同定、第2部はDNAメチル化の影響について述べられている。 第1部では、L1のsite Aの結合因子TFL1-Aをクローニングするにあたり、既知の転写因子を調べたところ、site Aにホモロジーのある配列に結合する因子YY1がすでにクローニングされていた。そこでこのYY1とTEL1-Aの関係を調べた。 YY1cDNAを単離し、lac Zとの融合タンパク質(rYY1)として大腸菌でつくらせた。このrYY1をsite Aを含むプローブでgel shift assayを行ったところ、rYY1を含む大腸菌抽出液だけにシフトしたバンドが見られた。このバンドは、self-competitionで消失したが、site Aを変異させたcompetitorでは消失しなかったことから、rYY1は特異的にsite Aを認識結合することが示された。 更に抗-YY1抗体を使いgel shift assayを行ったところ、TFL1-A-site A複合体によるバンドはスーパーシフトした。さらに抗-YY1抗体のエピトープを持つペプチドを加えたところ、スーパーシフトは形成されなかった。 以上の結果より、L1のsite Aに結合するTFL1-Aはpol II転写因子のYY1であることが明らかにされた。 第2部では、L1の転写におけるメチル化の影響について調べた。 L1プロモーター領域のメチル化とL1の発現に逆相関があることが報告されており、そこでメチル化によりL1の発現が抑制されるのかを直接明らかにするために、transfection assayおよびin vitro transcription assayを行った。 site Aを含むL1配列をCATの上流に持つコンストラクトを作成し、CpG methylaseでメチル化し、Hela細胞にtransfectionした。メチル化の基質を除いて反応(モックメチル化)したのをコントロールとした。その結果、コントロールに比較してメチル化したコンストラクトのCAT活性は著しく減少した。以上の結果より、L1の転写はメチル化により抑制されることが明らかになった。 この実験で用いた鋳型にメチル化されるCpG配列は7つある。そこでこの7つのCpG配列のうち、どのCpG配列が転写制御に必要なのか、より詳細に解析した。site specificにメチル化するために、CpG配列をカセット変異法でメチル化できない配列にある組み合わせで置換した。CpG methylaseでメチル化した後、in vitro transcription assayを行ったところ、+42から+72までのCpGをメチル化したときのみL1の転写が抑制された。またこのうち1つでもメチル化されなかった時はL1の転写が抑制されなかった。つまりL1の転写制御には4つのCpG(+52,+58,+61,+70)がメチル化されることが必要十分であることが示された。 以上の結果、次の2つの興味深い結論が得られた。 1)L1のsite A結合因子TFL1-Aはpol II転写因子のYY1である。 2)L1の転写はメチル化によって抑制され、その抑制には4つのCpG sitesがメチル化されることが必要十分である。 なお、本論文の第1部の一部は、黒瀬光一、服部正平らとの共著論文として発表されているが、本学位論文に書かれている部分は論文提出者が全てにわたって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 よって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |