ssp遺伝子中のC末蛋白に相当する部分をプローブとして、各種Serratia属細菌のクロモソームDNAについて、サザン解析を行ったところ、S.marcescens以外のSerratia属細菌においても、C末蛋白と相同性のある配列が存在することが明らかになった。この結果はSSPと同様の菌体外分泌機構がSerratia属細菌において広く分布していることを示唆している。また、ssp遺伝子をクローン化した親株であるS.marcescens IFO 3046株には、ssp相同遺伝子が2つ存在することが明らかになった。そこで、これらをクローン化し解析を行った。
(1)ssp相同遺伝子の大腸菌での発現 ssp相同遺伝子を含むDNA断片を取得し、計約7kbの塩基配列を決定した。2つのssp相同遺伝子(ssp-h1,ssp-h2)は121bp隔ててタンデムに存在しており、それぞれ1036、1034アミノ酸をコードしていた。両者はアミノ酸配列で互いに81%の相同性があり、preproSSPとはともに55%の相同性があった。また、Pasteurella haemolyticaの抗原蛋白(Ssal)の全長やRickettsia rickettsiiの表層蛋白(rOmpB)のC末領域とも相同性があった。
ssp-h1遺伝子を保持する大腸菌においては、ssp-h1は自身のプロモーター配列により発現し、53kDa(シグナルペプチドが切断されたN末側約半分、45Tyrから561Asn)と49kDa(C末側約半分、562Serから1036Phe)の2種の蛋白が外膜に検出された。また両者はトリプシンに耐性であることが示され、外膜に埋め込まれた状態で存在していると推測された。つまり、SSP-h1のN末側領域は、SSPでは菌体外に分泌される成熟酵素部分に相当するにもかかわらず、菌体外に分泌されることなく外膜にとどまっていることが示された。
ssp-h2に関しては、その上流にはプロモーターとして機能できる配列が存在しないこと、SSP-h2のシグナルペプチドは典型的なものとは少し異なっており効果的に機能できないことが示された。そこでtacプロモーターとSSPのシグナルペプチドを使ってSSP-h2の大量発現を試みたところ、ssp-h1の場合と同様の現象が観察され、SSP-h2のN末側領域も菌体外に分泌されることなく外膜にとどまっていることが示された。
(4)まとめ 以上の実験結果より今回クローン化したSSPホモログは菌体外分泌酵素ではなく、機能はいまだに不明であるが、一種の外膜蛋白であると思われる。(セリンプロテアーゼの活性中心を構成するアミノ酸は保存されているにも関わらず、プロテアーゼ活性は検山されていない。)しかしながら、SSPとのキメラを用いた解析等によりホモログのN末側領域の外膜へのトランスロケーションにC末蛋白部分が関与していることが示唆されたことなどから、SSPホモログはSSP分泌機構の原型なのではないかと考えられる。
1)Ohnishi,Y.,Nishiyama,M.,Horinouchi,S.,and Beppu,T.(1994)J.Biol.Chem.269,32800-32806
2)Shikata,S.,Shimada,K.,Ohnishi,Y.,Horinouchi,S.,and Beppu,T.(1993)J.Biochem.114,723-731
3)Shimada,K.,Ohnishi,Y.,Horinouchi,S.,and Beppu,T.(1994)J.Biochem.116,327-334
4)Ohnishi,Y.and Horinouchi,S.(投稿中)